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 逢坂課長はああ見えて、実は妻子持ちだったりする。バイセクシャルの課長は大学時代に今の奥さんと結婚している。  恋人の一人だった奥さんの妊娠が発覚して、なし崩しに籍を入れたんだそうだ。その時に産まれた一人娘は、今はもう大学生になっているはず。  てなわけで、所謂(いわゆる)愛人の俺としては課長の家に押し掛けてもいいんだけど、別に課長の嫁さんや娘の顔なんか見たくもねーし。 (チッチッチッ……)  時計の針が22時を回った。 (……ろそろ終わる頃か)  今回は就業時間の17時きっかりに家に帰って来た。いつものように残業している課長を準備万端、手ぐすね引いて待っている俺。  それから程なくして、 (……ピン――、ポーン)  ……来たーーっっ!!  遠慮がちなチャイムの音がした。多分、課長だ。時計を見ると、いつも課長の残業が終わる時間よりも少し早い時間で。 (――くっそー。楽しみにしてんな)  そんな課長にちょっと腹を立てながら、それでも俺はいそいそと玄関へと向かった。 「長谷部君、ごめん。遅くなっちゃって――」  何をおっしゃいますか逢坂課長。いつもの時間よりも一時間は早いじゃないですか。  やっぱり楽しみにしてたんでしょ――? (……ガチャッ)  後ろ手に閉められたドア。 (――ガチャ) 「…………え?」  俺はそのまま課長の手を取って、後ろ手に玩具の手錠を掛けた。

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