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その日は三連休の一日目で、俺は朝から浮かれていた。新聞配達のバイクの音で目覚め、新聞を取りに行く。大口を開けて欠伸 をして、ぽりぽりと腹を掻きながら誌面を広げた。
(どれどれ――、またハズレかあ)
こないだ買った宝くじ。当然のように外れてはいたが、俺の浮かれはそれでも納まらない。自然に笑けてくる顔を意識して引き締めながら、俺はキッチンへと向かった。
今日は俺にとっては特別な日。課長と付き合い始めて半年の記念日だ。課長は無邪気な笑顔で、
「その日は長谷部君の部屋でお祝いしよ? 泊めてくれる?」
勿論、お断りする要素なんてこれっぽっちもありませんともっっ !!
俺は二つ返事で快諾し、今日の日を迎えたのである。
思えば課長と付き合い始めて半年。本当にいろんなことがあった。俺が一方的に怒っても課長は穏やか(なのか……?)に宥 めてくれるから、喧嘩になったこともなかった。
そんな優しくて愛しい人への最高のプレゼント。俺は最高の料理を用意することにしたのだ。
実は俺は、調理師免許を持っていたりする。学生時代、本当は板前になりたかった。しかし中学の頃から続けていたバレーボールを続けなければならない状態に陥って、板前の道を諦めたいきさつがある。
それからまだお目に掛かれてはいないが、我社の社長は実業団バレーでのエースだったらしい。求人票に書き込みされていたその文字を認めた俺と腐れ縁で同じバレー部だった御手洗は、迷わずこの会社に決めたのだ。
(――ことん)
さらしに巻いた愛用の包丁をまな板の上へ置く。冷蔵庫から御手洗 からの差し入れの真鯛を取り出して、手際良くさばいて行った。
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