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エラの部分に包丁を宛て、尻尾に向かい骨に添って包丁を滑らせる。切り取った身を塩水に曝 し、軽く締まらせてから切り分けて行った。
活け作りとまではいかないけれど、一応は鯛 の尾頭 付きだ。大根を桂 剥 きにして細く刻み、人参 と一緒にそれらしく盛り付けた。それから、窓際のプランターから紫蘇 の葉を一枚。
こう言っちゃなんだけど、俺ってばいい嫁さんになれそうだよな。何たってそこらの女よりも料理も上手いし。
いかんせん掃除や洗濯は苦手だったりするけど、今日のために掃除もしたし、シーツも洗濯しておいた。残りの切り身と骨で澄まし汁の完成。同じく御手洗から貰った他の魚も焼物や煮物に変貌を遂げ、
「――っと、こんなもんかな?」
我ながら美味 そうな魚のフルコースが完成した。
これを課長に食わせたかった。魚が好きな逢坂課長。ランチの時間に定食屋に行く度にいつも、焼き魚定食を注文している。
確かにおばちゃんの料理も美味いんだけどさ。やっぱり自分で作った方が美味いと思ってるし、単純に課長を喜ばせたかった。
時計の針はいつの間にか10時を過ぎてしまっている。乾燥機からシーツを取り出して、お日様の下に天日干しした。
(――ピン……、ポーン)
その時、遠慮がちに押された聞き慣れたチャイム。
(――キターーッッ!)
俺はコンロの火を止めて、いそいそと玄関へと向かった。
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