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「あなたが長谷部君?」 「…………」  しかし、ドアの前に立っていたのは課長ではなかった。立っていたのは俺と同い年くらいの女の子。  くりくりとした瞳で睫毛(まつげ)が長く、どこか誰かに似ているような――。  けれど、どう考えても初対面の相手だ。 「初めまして、逢坂(おうさか)晴香(はるか)です。こう言えばわかるかな?」 「…… !!」 (も、もしかしてっっ !!)  確か、課長には俺より一つ年下の娘がいるはずだ。そう言えば、この顔は課長に似てなくもない。特に美人というほどではないが、どこか惹き付けられるような――。 「今日、記念日なんだって? おめでとー。パパはまだ来てないよね。取り敢えず上がらせてもらうねー」  彼女の台詞に面食らっている俺を尻目に、彼女はスタスタと俺の部屋に入って来た。 「へー、独身者用の社宅ってこんな風なんだー。結構、お洒落なマンション!」 「……」  始終無言で呆気(あっけ)に取られた俺を尻目に、彼女はずんずんと奧に入って行く。  それより課長、自分の娘に俺のことを話してるのか――?  冷や汗、脂汗を交互に垂れ流している俺に向かって、彼女は課長譲りの小悪魔的な笑顔を見せた。 「驚かせちゃってゴメンね。びっくりした?」 「そ、そりゃ……」  俺は彼女にお茶を差し出しながらも、正直、戸惑いを隠せない。俺と課長との関係は所謂(いわゆる)不倫関係、しかも男同士なのだ。  それなのに彼女は飄々(ひょうひょう)としていて――。 「パパからね、聞いてたの。新しい恋人ができたって。とても可愛い人で、私達と同じくらい大切な人だよ――、って」  一瞬、彼女の表情が少しだけ曇った気がしたが、 「パパ、あの通りの無邪気さんでしょ? 隠し事なんか出来ないみたい。で、ぜーんぶ話してくれるんだけど、パパの話を聞いてて私も長谷部君に会ってみたくなったの」  彼女は湯飲みを両手で支え、ゆっくりと小さな口許(くちもと)へと運んだ。

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