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03
「あなたが長谷部君?」
「…………」
しかし、ドアの前に立っていたのは課長ではなかった。立っていたのは俺と同い年くらいの女の子。
くりくりとした瞳で睫毛 が長く、どこか誰かに似ているような――。
けれど、どう考えても初対面の相手だ。
「初めまして、逢坂 晴香 です。こう言えばわかるかな?」
「…… !!」
(も、もしかしてっっ !!)
確か、課長には俺より一つ年下の娘がいるはずだ。そう言えば、この顔は課長に似てなくもない。特に美人というほどではないが、どこか惹き付けられるような――。
「今日、記念日なんだって? おめでとー。パパはまだ来てないよね。取り敢えず上がらせてもらうねー」
彼女の台詞に面食らっている俺を尻目に、彼女はスタスタと俺の部屋に入って来た。
「へー、独身者用の社宅ってこんな風なんだー。結構、お洒落なマンション!」
「……」
始終無言で呆気 に取られた俺を尻目に、彼女はずんずんと奧に入って行く。
それより課長、自分の娘に俺のことを話してるのか――?
冷や汗、脂汗を交互に垂れ流している俺に向かって、彼女は課長譲りの小悪魔的な笑顔を見せた。
「驚かせちゃってゴメンね。びっくりした?」
「そ、そりゃ……」
俺は彼女にお茶を差し出しながらも、正直、戸惑いを隠せない。俺と課長との関係は所謂 不倫関係、しかも男同士なのだ。
それなのに彼女は飄々 としていて――。
「パパからね、聞いてたの。新しい恋人ができたって。とても可愛い人で、私達と同じくらい大切な人だよ――、って」
一瞬、彼女の表情が少しだけ曇った気がしたが、
「パパ、あの通りの無邪気さんでしょ? 隠し事なんか出来ないみたい。で、ぜーんぶ話してくれるんだけど、パパの話を聞いてて私も長谷部君に会ってみたくなったの」
彼女は湯飲みを両手で支え、ゆっくりと小さな口許 へと運んだ。
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