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 面食らっている俺の目の前で、彼女は楽しそうに笑っている。少しだけお茶に口を付け、それからゆっくりと口を開いた。 「私ね、同性愛に偏見とかないんだー。ってかね? 小さい頃からパパに聞かされてたから。人を愛する気持ちには男も女もなくて、パパは心で恋をするんだよ……、って」  課長は自分の性癖の全てを、彼女がまだ小さい頃から聞かせていたらしい。 (……それは有り難いんだが) 「ママもね、知ってるよ? ママはパパよりもっとおっとりしてて、パパが楽しそうに長谷部君のことを報告しているのをニコニコしながら聞いてるんだから。ふふっ」 「え……」 「あっ、誤解しないでね? パパを取らないでとか、別れてとか言うつもりはこれっぽっちもないから。ただ、パパから長谷部君の話を聞いてるうちに会いたくなっちゃったんだよねー」 「…………」  さすがは課長、恐れ入りました!  既に家族にも報告済みだとは。しかも娘も天然だし、奧さんは二人に輪を掛けたような、更なる天然さんのようで。 「会えて良かったー。長谷部君がいい人だってわかったし、パパも幸せもんだー」 「……俺がいい人だってなんでわかるの?」 「ん? だってこのお茶、とっても美味(おい)しいんだもん。美味しいお茶を()れてくれる人に悪い人はいないんだよー」 「…………」  彼女は(しぼ)りたて100%オレンジジュースのような純粋で(けが)れのない顔でにっこり笑った。 (――ピン……、ポーン)  その時、彼女が来た時と同じ控え目なチャイム。 「……晴香 ?!」 「あっ、パパ! お邪魔してまーす」  課長は最初こそ驚いた顔をしていたが、すぐに父親の顔になり、照れ臭そうに笑って見せる。 「わっ、これ長谷部君が作ったの ?! いっただきまーす」  それから二人は声を合わせ、嬉しそうに料理に箸を付けた。

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