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(それにしても……。なんなんだ、この状況は)
逢坂父娘 は楽しそうにお喋りしながら料理に箸をつけ、うちの狭いダイニングに一家団欒 の輪が広がっている。きっとこれに奥さんも加わって、ほのぼのと絵に描いたような光景が逢坂家では見られるんだろう。
俺は久しぶりに実家のことを思い出し、少しだけ感傷的になりながら二人の会話に耳を傾けた。
「…………」
だがしかし。会話の内容は、俺と課長との馴れ初めとか。危険度が高すぎるんですけども。それでも少しずつ、この一種、異様な環境にも慣れて来てしまった。
逢坂課長にとっては気持ちが一番大切で。世間がどうとか、体裁がどうとかは二の次で。それを隠すことなく立ち振る舞って来たから、周りの人間も課長に感化されるんだろう。
逢坂課長を中心に世界が回っている。
つまりは、そう断言しても過言じゃないほどこの日常が当たり前になって来たってことだ。でもやっぱり、あのビョーキだけは治して欲しいけど。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。
「ごちそうさまー。長谷部君、美味しかったー。じゃあ、そろそろ私はおいとまするね?」
逢坂娘は、ちらっと時計に目をやった。時計の針は、いつの間にか夜の10時を回っている。
「長谷部君、ありがとう。……あっ、パパ! 今夜は泊まってくんでしょ?」
(えっ !?)
「うん。ママによろしく言っといてね?」
「オッケー。それじゃ、お邪魔しましたぁ」
(いいの !?)
逢坂課長にそっくりな笑顔を俺に向け、彼女は家へと帰って行った。
「晴香ちゃん……、いい子ですね」
「でしょ? だって僕の娘だもん。あ、でも好きになっちゃダメだよ?」
「何言ってんですか。僕には課長で手いっぱいですよ」
そう笑って、課長をそっと抱き寄せる。後片付けは明日するとして、二人、手を繋いで寝室へと向かった。
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