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それは甘い、恋の痛み。④

例えばなんだけど、大学で講義を受けている時、バイトで着ぐるみに入って子ども達と格闘するとき、バイトで肉まんを袋から取り出して温め始めた瞬間、ふと思う。 夏目さんの顔や仕草、匂いや声を思いだしてしまう。 すると、胸が苦しくなるんだ。 ぎゅっと鷲掴みされて、心が痛む。 好きって感情が心を支配すると、何をしていてもふと思い出しては甘く痛む。 淡々とした日常の中で、変わらない色を映す空の中で、見上げたら星が綺麗だと気付くように。 俺は、知らなかった沢山の痛みの中、泣きたくなるような叫びたくなるような心の震えも、穏やかで慈しみ、相手を思うとドキドキしてしまう気持ちも知った。 それは確かに甘い恋の痛みだった。 好きってだけで弱くもなるし、めちゃくちゃ強くもなる。 俺の気持ちが届いているのか不安になるときもあれば、もっともっと伝えたくて走り出したくもなる。 幸せの余韻の中、まだまだ足りなく溢れてくるこの気持ちは、名前を知ってしまった途端、温かい涙を流した。 「……起きてるのか?」 温かいタオルが頬に当たった。 うっすらと目を覚ますと、煙草を咥えた夏目さんが俺をちょっと心配げに見下ろしていた。 「な、にしてんの?」 「身体を拭いてた。ぐっちょぐちょだから」 にやりと言われて、口をぱくぱくさせたが怒鳴る言葉が見つからなかった。 「ば、馬鹿じゃねえのかよ! 普通、腕枕とかしたりして、朝のいちゃいちゃするべきだろ! なんでそんな作業してんだ! こっち来いよ!」 隣をパンパン叩くと、いつの間にかシーツも新しくなっていたし、脱ぎ散らかした服が干してある。 ……まじかよ。 「夏目さんって口悪いし巨根のくせにA型?」 ベッドに座ってから俺の隣へ入ってきた夏目さんが首を傾げる。 「口が悪いのと巨根は関係あるか? Aだ。聖はOかな」 くくっと笑うと、腕を差し出して来た。 すぐ飛び付くが、腕枕は硬かった。 首が痛い。 「起きてもしばらくイチャイチャしたかった!」 「……ほお。乙女ちゃんだな、聖は。でも」 頬を摘ままれ、夏目さんが顔を近づける。 「下の名前を呼べと昨晩あんなに言っただろ」 ひえ。良い顔。強面だって思ってたけど、微笑むと甘くてイケメンで、顔面凶器だ。 見つめられたせいで、頬が熱くなってくる。 「た、拓馬さん?」 「お前の生意気そうな顔で『さん』付けはなんかなあ」 「ほら、そんな事言うじゃねえか」 「呼び捨てでいいんだよ。呼び捨てで」 硬い腕枕の上で鼻を摘ままれ、にやりと笑われた。 「拓馬……?」 「おう。良いじゃねえか」 「で、でも、俺大学生で、拓馬は社長なのに呼び捨てとか、それ」 「ぶはっ 今さら俺に遠慮なんてしてんじゃねーよ」 ばーか、と唇にキスされてしまえば、俺の言葉なんて簡単に封じ込められてしまった。 「俺たちは恋人なんだぞ? 立場とか年齢とか気にする必要はねえよ。少なくても俺にはすんな。いいな」 「じゃあ、二人っきりの時の特別な呼び方ってことでどうだ!」 それでもやっぱ社長の威厳とか俺が気にしてしまうじゃんか。 「まあお前が良いなら、それで良いけど」 「俺はこうして二人っきりの時に一人占め出来たらいいんだよ」 硬い腕枕も、髪を梳くってくるその優しい手つきも、全て全て俺のモノ。 「で、二限目の講義はいけそうか?」

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