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エピローグ⑩
高いと怒るんじゃなくて、拓馬は俺に惜しまず金を使ってくるから怖いんだよ。
もう少し老後に備えて蓄えてろ。
「俺、馬鹿だし甘ったれだし、就職祝いのお返し、身体で払う以外ないんだけど」
「身体で払いたいだけだろ、馬鹿」
ああ、拓馬の馬鹿って言う声、超好きだ。
好きだし、なんていうか、甘い。
低い声なのに、妙にドキドキしてしまう。
男の俺でさえこんなんなんだから、拓馬のことを怖がらない女が現れたら速攻で好きになるんだろうな。
「拓馬」
「あ?」
「さきに謝っておくけど、俺、拓馬の傍に一生居たいから、結婚とか子どもとか諦めとけよ」
「くっ」
一瞬だけ真面目に聞いてくれていたのに、張り詰めていた空気が壊れた。
そのまま、後ろから抱きついていた俺を剥がし乱暴に腕を引っ張ると、荒々しく唇を奪われた。
「んっ ――んんっ」
ああ。やばい。
歯までなぞってくる拓馬の舌、やばい。
すげえ甘く感じる。
「謝る必要もねえし、離すつもりもねえからな」
ベッドに俺を押し倒しながら、小さく舌打ちする。
「っち。一時間じゃ無理だな。仕方ねえ。肉が常温に戻るまでってことで」
「やっぱ肉かよ。吾妻達は?」
「知らねえな。待たしとけばいい。三人で楽しく待てるだろ」
……あいつらの動きも謎だよなあ。
どんな関係なのか。
一瞬だけ考えが過ったけれど、覆いかぶさってきた拓馬に思考を奪われる。
ああ。好きだ。
この見下ろされる瞬間、胸が甘く痛む。
この先に始まる行為を、期待して痛む。
好きすぎて、言葉だけじゃたりなくてキスをせがむように。
この先の拓馬と、身体を重ねられる喜び。
この先に未来を、真っ直ぐな目で保障してくれる優しさ。
好きだと囁いてくれる声。
組み敷かれれば、体格的にも逃げられないのに。
それなのに優しく壊れないように触れてくる拓馬の手。
全部、好きだ。
全部、ひとつひとつが俺の胸を甘く痛ませる。
「……どうした」
心配げに拓馬が俺を見たかと思えば、目尻を舐められる。
「何泣いてんだよ、馬鹿」
苦笑しつつも、優しく抱きしめてくれる。
口は悪いけど、その体温が俺を優しく包み込んでくれるから。
だから俺は安心して、自分の居場所の中で泣いているんだ。
幸せの痛みの中で。
「拓馬の方が馬鹿。すげえ好き」
「ああ、俺も」
どちらからとなく仕掛けていく雁字搦めのキス。
シーツの海に溺れながら、二人で沈んでいくなら怖くない。
絶対に一時間や二時間では満足できないから、うんっと待たせて甘えてやろう。
両足を拓馬の足に絡ませながら、甘い痛みに酔いしれたのだった。
完
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