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プロローグ 2
じいちゃんのモノだったんだから、花渡は俺のものでしょ?
で、100万で買われてるんだから俺は暇(いとま)のものでしょ?
じゃあ、お前は誰のものなの?
クスクスと下らない話をして、お互いの肌に触れて笑いあう。
俺は暇のモノだけど、暇は誰のモノでもないらしい。
「俺は、誰のモノでもないけれど、お金くれたら信じちゃうかも」
「お前の気持ちはお金で買えるのかよ」
クスクスとまた笑う。
その声が、うす暗いホテルの部屋の中、くぐもって響く。
「誰かのモノになるってさ、超重くね?」
チャラい言い方でケラケラ笑う暇は、そう言いつつも俺の腰に抱きつくと子どものように丸まって眠りだした。
同じ目線では眠らねえの。いっつも腰に抱きついて、良く分からない、くだらない話でちょっと笑って。
これは俺の買った玩具だ!と、玩具を誰にも触らせないで抱きしめる子どものように、そのまま眠る。
これで一晩、100万いただいております。
暇のおかげで、今月もまたデートクラブは売上ナンバー1なんだろうなあ。
じいちゃんが亡くなる数ヶ月前だったかな。
俺は田舎の本家に顔を出した。
確か高校三年ぐらいだった。
親からは本家には近寄らないで良いと言われていたから、小学生の時に行った以来だった。
俺が小学生の時、すでにじいちゃんの隣にはあの美しい男がいた。
――花渡 司。
目を見張るような、吸い込まれて魅了されてしまうような、中性的な美青年だ。
まだあいつだって学生だったはずなのに、せっせとじいちゃんの車椅子を押して、花渡司の妹である式部ちゃんが家事をしていた。
異常な関係だったし、おかしいとは思った。
けれど、あいつが綺麗だからなんじゃないか。
花渡 司(はなわたり つかさ)
落ちぶれた旧華族である土御門家に引き取られ、じいちゃんの身の回りのお世話をしていた孤児。じいちゃんは引き取ったくせに、養子縁組はしていなかった。
なのでじいちゃんの余命が数カ月だと分かり、財産分与の件で弁護士に集まるように言われて召集された俺は息を飲んだ。
じいさんの弁護士だと名乗ったのは、あの花渡だったから。
じいちゃんが亡くなって、旧華族だった本家は土地や家は俺に権利が渡ったんだけど、それは20歳になるまで親が管理してくれることになった。
はっきり言って、田舎の本家なんて古臭い大きな家ってだけで管理が大変そうで邪魔だし。
土地は二束三文で売れそうにない田舎の田んぼや山三つ。
従姉妹や従兄弟のスズメの涙程度の現金と比べたらどっちが良いのか分からないぐらいだった。
が、一応本家は俺が継ぐらしい。
俺の代で終わらせても良いし、なんなら式部ちゃんと番(つがい)になれとじいちゃんが笑っていたのを覚えている。
田んぼはほとんど貸しているが、売ってしまっても構わないと。
じいちゃんは死ぬ前に面倒くさいことあれば、こっちの弁護士に全部任せているからと伝えていた。
滅多に口を開かないが、じいちゃんの隣で綺麗な顔で座っている花渡に、俺は少しだけ興味があった。
『あんた、じいちゃんが死んだら俺のモノなの?』
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