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プロローグ 3
じいちゃんが式部ちゃんにご飯を食べさせてもらっているのを、縁側でぼけっと見ていた。
そのときにお茶と和菓子を持ってきた綺麗な男の腕を掴んで、そう尋ねた。
俺に手を掴まれたのを嫌がる様子も振りほどこうとする素振りも見せず、じっと俺の顔を見る。
動きとか雰囲気とか、孤児の癖に色っぽくて艶っぽくて興味がわく。
綺麗なこの男は、財産分与には入らなかった。
ということは、じいちゃんの財産ではない?
でも花渡はじいちゃんの財産は受け取れないらしい。
となると、今後どうやって生活するのか気になったのだ。
『そうですね。貴方が次期当主なのでしたら、私は貴方の専属顧問弁護士ってことになりますね』
『えー、あんた、じいちゃんに養われてたんでしょ? じいちゃんとはお金の関係だったの?』
『土御門さんには、拾って頂いた礼と、妹共々大学まで行かせて頂いた御恩がありますので』
……ふうん。
納得できるようなできないような。
すぐに俺はじいちゃんの元に向かった。
ご飯を食べ終え、ぼーっとテレビを見ている。
式部ちゃんはちょうど食器を下げに台所へ向かっていた。
広くて、隙間風が多くて、カタカタと縁側が揺れる音がする。
そんな空間に、やせ細って置物みたいに座っているじいちゃんを俺は見て、目の前に座った。
『テレビが見えんぞ』
『あのさ、じいちゃんが死んだら、あの人も俺に頂戴よ』
『――あ?』
歯がほとんどない口を開けて、じいちゃんは驚いた。
『この家、あの二人が住めば俺が管理しなくて良いし。俺、あの人も貰ってやるよ』
『……そうじゃな。わしもあの二人を残していくことだけが心残りだ』
じいちゃんが寂しそうにそう告げた後、俺を手招きした。
近寄った俺に、しわくちゃな手で頭を撫でながら縁側で話を聞いていた花渡を見る。
『わしじゃあげれんかったが、あの子に溢れんばかりの愛をやってくれ』
『あ、い?』
いきなりの言葉に声が裏返る。
『ああ。頼むぞ、次期当主』
『愛ぐらいで、花渡は俺のモノになるの』
俺の言葉にじいちゃんは豪快に笑う。そんなに笑うと、もろくなった骨が折れてしまわないか不安だ。
『どうなんじゃ、司。うちの孫はどうだ』
面白がるじいちゃんに対し、花渡はいつも通り冷静沈着だ。
『土御門さまが望むならば、お好きにどうぞ』
そして自分の価値を全く知らない馬鹿なところ。
そこが愛おしくて気に入ってしまったんだ。
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