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一、指名料頂きます。①

俺のモノだろっとか、俺に頂戴とか散々言ったのに、その日以来全く会う機会はなかった。 だから20歳になっていきなり現れた時は、驚いた。 ――けど、淡々とした表情の変わらない奴だと思ってたからちょっと面白かった。 *** 「どういうことでしょうか」 なかなか高級そうな車から降りて、俺の元に一目散にやってきたのは花渡司。 俺の首元のシャツを両手で掴む。 「え、なんで暴力?」 「トボケないでください。――貴方みたいな恵まれた方が、どうして」 「ご主人さまに暴力していいの? あんた、今、俺のモノでしょ?」 クスクスと笑うと、車から出てきたもう一人が俺のもとへ走ってきた。 「何を言ってるんだ! 歯をくいしばれ!」 走りながら右手をあげて突進してきたのは、――式部ちゃん。 これは流石に逃げられないなあとため息を吐いたら、花渡がその手を掴んで庇ってくれた。 「私が話します。式部は先に車に乗って帰っていてください」 「でも、兄貴!」 「ご当主には私からお話しします」 苛立った声に、なんだ、こんな顔もできるんだってニヤニヤしていた俺。 その俺を、ゴミを見るかのように睨みつけてきた。 一応、ご当主なんですけど? 花渡が血相を変えて怒る理由はただ一つ。 式部ちゃんも花渡も俺に会いに来なかったくせにこんなことだけは怒るんだから面白い。 俺は、じいちゃんが死ぬ前に一度だけ、呼び出されてその店を知った。 ゲイ専用のデートクラブ『ハーツ』 会員制で、昔は一見さんお断りだった店。 今は社長って肩書や、金持ってる奴なら紹介で会員になれちゃう。 じいちゃんはここを運営していた。 そこに売られた花渡を、客に渡す前に引き取ったらしい。 なので、その店も俺が引き継ぐことになった。 ゲイ専用の怪しいお店。 うちの親はそれを知ってたから本家を遠ざけていたのかもしれない。 「で、なぜ貴方がその店で働いてるんですか!」 「だって良いお小遣いになるし」 「お小遣い!? お金には困ってないでしょう。ふざけないでください」 苛立った花渡が面白くて――でも腸は煮えくりかえっていて、思わず吹きだしてしまった。 「二年も気付かなかったくせに」 いや、正確には俺に権利が全て譲渡される20歳まで、俺の事なんて忘れていた。 それが面白くなかった。

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