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一、指名料頂きます。②
じいちゃんの葬式でも、弁護士として部屋の隅っこに座ってただけ。
俺が未成年だからか、淡々としてて俺よりも俺の両親と会話してたし、俺がご当主なんだから、もうちょっと敬ってほしかったんだけど。
それからほとんど連絡もない。
ようやく成人した20歳になって現れるなんてムカつく。
「花渡さんはさあ、あのデートクラブで一回も客に買われなかったの?」
「当たり前です。所属して最初のお客の前に前ご当主の土御門様に拾って頂きましたので」
「でも此処で働こうとしたってことはゲイ?」
クスクスと笑うと、花渡は俺を汚物を見るかのように冷たく一瞥した。
「貴方こそ、興味本位でこんな所で働くなんて。――まっとうな道を歩いてきたくせに」
「あはは。妬まないでよ。それに俺、もしかしたらバイだし?」
面白い。じいちゃんの隣に居た時は、人形みたいだったのに。
世話役なら、ほとんど式部ちゃんがしてたじゃん。
ご飯、掃除、洗濯。
あんたは車椅子にじいちゃんを移したり、車椅子を押したり?
あとは何をしてたんだろうね。
「あんたに興味しかないんだよね」
「それは、恵まれた方の戯れでしょうね。不快です」
「別に良くない? えっちはしてないし。本番NGだし」
「……そんな問題ではありません。それにお金なら不自由していないでしょう」
「じいちゃんの財産って、田舎の田んぼの貸出しぐらいじゃん。その収入であの古い屋敷のメンテを花渡に頼んでほとんど相殺じゃん」
正確には、花渡二人に管理してくれる報酬として渡している。
親戚でさえだれもじいちゃんの遺産を欲しいと言ってくれる人が居なかったからほとんど押し付けたも同様だし。
「花渡さんは、今なにしてんの?」
「……企業弁護士です。顧問弁護士というとややこしいでしょうが、式部と一緒にトラブルだらけの会社の弁護を日々やってます」
「トラブルだらけの会社って」
自分が働いてる会社の事をそんな風に言うなんて思わず笑ってしまった。
しかも、変な会社に就職するなんてつくづくこの人って運がないんだろうなあ。
「貴方こそ……土御門の御屋敷に、近づこうともしなかったくせに」
花渡は、にやにやと笑っている俺を見て、冷たく言葉を放つ。
一かゼロしかない場合と同じで、花渡の中では俺は好きか嫌いの存在で表すならば、嫌いなんだろうな。
拒絶しているのが全身から伝わってくる。
「私と前当主のことを好きに勘ぐって頂いても構いません。でも親戚の誰も近づかなかったってことは、私たちが異質だと思ってたのでしょう。それで、貴方達は自分たちは普通だと。――それでいいじゃないですか。もう私に近づかなくていいでしょう?」
この数年、連絡を取らなかったのは普通の俺の為だと暗に言いたいのだろう。
「貴方は、一般的な家庭で、愛情を頂き、普通に進学できて家に帰ればご飯があって、そんな普通の恵まれた家に生まれた方です。わざわざ此方側に来るメリットがない」
「うーん、と」
鼻の頭をポリポリ掻きながら、俺はこの美しい男を見上げる。
首を絞めるようにきちっとボタンを止めて、息苦しそうな堅苦しいスーツに身を包んでいるこの男を見る。
「アンタが欲しいから、同じところまで目線を下げたってことかな。俺、ずっとあんたに興味沸いてたって言ったでしょ?」
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