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一、指名料頂きます。③

好奇心からなのか。 例えば、そのスーツを今すぐびりびりに破いて、中の白い肌を触ってみたい。 その時に、どんな反応をするのか知りたい。 じいちゃんに可愛がられてたんならそれぐらいのことで、動揺しないかもしれない。 けれど、嫌いな俺に、屈辱的なことをされてどんな気持か知りたい。 悔しい? けどご当主だから逆らえない? 「例えば――あんたって、抱く方? 抱かれる方?」 近づいても逃げなかったのでネクタイを掴んで、聞いてみる。 「……どちらも興味ありません」 「あはっ そーゆう反応。そーゆう反応が溜まんないんだ。無意識に誘われてる気がする」 「ふざけないでください」 あ。怒った? ネクタイを掴んでいた手を振りほどかれた。 一応、嫌な言葉ははっきり拒絶するみたい。 益々面白い。 「ね、――アンタの裸が見てみたい。どっかホテルいかない?」 俺は女しか経験ないから、花渡をリードするとしたら抱かなきゃいけないんだけど、そんな気分でもない。でも乱したい。 喘がせてみたい。ただの好奇心。 「構いませんよ」 花渡は表情を変えずに淡々と告げた。 いや、表情から氷点下まで冷えていくような冷たさをひしひしと感じさせてきた。 どうみても、今からお互い抱く、抱かれるって関係に発展しなさそうな感じ。 「ねえ、あんた、俺にどんな感情持ってんの?」 「そうですね。ご無礼を承知で言いますが」 眼鏡を取って拭きながら、ふうっと息を吹きかける。 「前当主の恩を返すためなら、馬鹿な孫にも尻尾振らないとなあ……。煩わしいなあって感じでしょうか」 「あはは、なんだよ、自分の気持ち言えるじゃん。人形かと思った」 「貴方とは生きた環境も、経験も、年月も違いますので」 「ふうん」 まるで、この世の不幸を全て見て来たって感じの、悟りきった冷たい表情。 それが俺には鼻に付いた。 というか、せっかく綺麗なのに萎えた。 芯がへなへなと折れていく。 「やっぱ止めた。いいや、欲情しなくなった」 「そうですか。残念ですね」 「じゃあ俺、今日指名あるからもう行くね」 「吾妻さん!」 「……あれ、俺の名前知ってたんだ」 車も式部ちゃんが乗っていったし、仕方なく歩いてバイト先まで行かないといけないのに、後ろを着いてくる花渡にはちょっとうんざりしている。 「当たり前でしょう。それより、そんな汚らしい仕事辞めてください」 「やだね。止めない」 「どうしてですか!」 あんたと同じ目線まで堕ちてみたい。 あんたの言うとおり、俺が恵まれた環境の恵まれた子どもだとしたら、あんたは逃げるんだろ。 「……嫌なら指定して会いに来てよ。指名料はもちろん掛るよ」 「ふざけないでください」 「あ、毎月5日は俺一日指定されてるから、4日の夜から5日のシンデレラタイムまで連絡できないから。それ付近は避けて」 鞄から名刺入れを取り出して、ピンク色でラメってキラキラの名刺を花渡に差し出す。 「受け取らないの? 指名料ってそんな高くないよ」

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