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一、指名料頂きます。④

冷たい瞳を憂いを滲ませて伏せると、億劫そうに名刺を受取った。 「こっち側に堕ちてきたいだなんて、上から目線で、酷く傲慢でそして浅はかですね」 「挑発してるつもり?」 「……心配してるんです。この土御門家の事を」 ……そう。 それは残念だったね。 じいちゃんの雀の涙程度の財産を分配した後、誰もこの名家の事を気にする人なんてもういないよ。 ――アンタをじいちゃんが引き取った瞬間から、この名家の衰退は決まっていた。 そう言ったら、花渡はどんな顔をするんだろう。 自分が悪いのだと、傷つくのか。 男に身体を売る店に、借金のかたに売られちゃうような、今どきありえないような境遇の花渡に、俺はどれだけ言葉で傷を抉れるのか少し楽しみで、――少し躊躇った。 躊躇する理由は多分、簡単で。 この綺麗な男に、いつかは少しは好意を持たれたいからだ。 こちらがこんなに執着しているのに、嫌われているのは俺だって少しはダメージがある。 だが俺だって、花渡に対して明確な答えのある気持ちがあるわけでもない。 「指名料は頂くけど、アンタならそれ以外はタダだからね」 固まっている花渡に近づくと逃げなかった。 なので、俺の名残を残す。 触れるか触れないかの曖昧な口づけをして、目を見開く花渡を残し、バイトへ向かう。 長く伸びる影だけは重なるのだけど、どうしても気持ちは離れて近づけない。 焦れる。この気持ちに名前もないくせに。

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