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未来は作れるというけれど
「っ、んっ…」
チュ、と小さいリップ音を立てて離れていく。
さっきまで自分と重なっていた形のいい唇は柔らかく、細かい所まで手入れが行き届いていると感心する。流石モデル。
「はぁ…」
一瞬触れ合っただけなのに、逆上せるんじゃないかというぐらい全身が沸騰しそうなくらい熱い。
「コウさん、超かわいいっ」
司は小さく笑って再び唇を優しく重ねる。
そして角度を変えて啄むようなキスをする。
「ん、ふっ…」
びくっと身体がいちいち強ばってしまう俺はぎゅっと司の服を掴む。
「っふ、コウさん 力抜いて」
頬に添えられていた手は後頭部へ移動され、もう片方の空いた手が俺の耳裏を撫でる。
「はっ…」
ぞくぞくと背筋が震え、ぴくりと肩が跳ねる。
はぁ、と息が口から漏れる。
「そう、いい子…」
あむあむと何度も重ねられた唇が、段々と深くなる。
「コウさん、口 開けて」
閉ざしていたそれを開けてと舌先で伺われる。
恐る恐る言われた通り ゆっくりと口を開くと、司は咥内に舌を侵入させ 俺のと絡める。
「んんっ」
(熱い…気持ちいい…)
司を迎え入れた俺は深まるキスに頭がぼーっとする。
擦り合わせた粘膜が気持ちよく、溢れてくる唾液が上手く飲み込めずに つぅっと口の端から溢れる。
俺もぎこちないながらに司のに舌を絡ませようとすると嬉しそうに吸い付かれる。
くちゅりといやらしい水音が聞こえる度に、ただでさえ熱い身体が更に熱を上げる。
初めてだから分からないけど、多分コイツ キス相当上手いんだろうなと思う。
俺は与えられる快楽に溺れるのが怖くて、しがみつくように司の首に腕を回して力を込める。
すると身体が密着して、司の体温がじんわりとこちらに伝わる。
(司も、熱い…)
「ふぁ、っ」
そんなことを思っていると司は優しい手つきで下から背筋をなぞってきた。司の手の動き一つ一つにビクビクと身体が敏感に反応してしまう。
優しくて、好きと丁寧に伝えてくれる動作一つ一つが嬉しくてその度に胸がぎゅうっと締め付けられる。
「コウさん…顔 とろんとしてる。気持ち良かった?」
司が唇をゆっくりと離すと、お互いの間に銀の糸が引いてプツンと切れた。
余裕そうな司と違い、肩で息をする俺はくたりと力が入らなくて司の胸元にもたれかかる。
そして、恥ずかしいが こくんと小さく頷く。
「コウさん」
少し掠れた甘い声が耳元で聞こえてすぐ、ちゅうと今度は耳にキスを落とされる。
「ひゃ、あ!」
思わず高い声が出る。
ピクピクと反応してしまう身体も、漏れる声も全部自分のじゃないみたいに感じる。
かぷりと甘噛みされ、耳朶を吸われる。
ぎゅうっと隙間が出来ないくらい密着する様に抱きしめられて、じわじわと全身が司の甘い熱に包まれる。
司の視線が動作が声が、『好き』をぎゅうぎゅうに込められた全てに痛いくらい心臓がまた締め付けられて苦しい。けれどそれ以上に幸せな気持ちが湧いてくる。
「あっ、っ…」
女の子みたいに高くて媚びたみたいな声が漏れ、恥ずかしさで視界が滲む。
「コウさん、好き」
引かれていないか不安になって顔を上げると、ギラギラと熱を帯びたサファイアが俺を見つめていた。
青い炎の方が熱いと習ったが、司の青もこちらが溶けてしまうのではないかというぐらい熱く感じる。
「つかさ…」
司は俺をビーズクッションの上にそっと優しく倒す。
そして、するりと服の上からお腹を撫でる。
司がこれからやろうとしている事を想像してしまい、頭が沸騰しそうになる。
「コウさん、ダメ?」
甘い声にくらりとする。
もっと、もっと欲しい。とねだってしまいそうになる自分を必死に抑えて、ふるふると首を横に振る。
「お願い。欲しい…コウさん」
司は眉を下げて困ったような余裕のない顔でお願いと訴えかける。
困った顔に弱いのを知っててやってるのがまたタチが悪いし、まあまあ欲望に忠実で流されそうな俺は心を鬼にする。
ダメだ、それだけはまだダメだ。
「司、ごめん。今はダメ…」
俺は自分にも言い聞かせるように伝える。
「俺、まだ未成年だから、成人するまで待ってほしい!」
「……は?」
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「嘘だろ…コウさん、歳下だったの?」
司は額に手を当てて項垂れる。
空いていたもう片方の手は俺の手をさっきからにぎにぎしたり指を絡ませている。
お前、ホントに可愛いな。
「うん。高卒で働き始めて誕生日2月だからまだ19歳。…言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇ…」
「それは失礼しました。お兄さん」
「社会人だし歳上だと思ってた」
「大人っぽいとはよく言われる。だから2月まで待ってて」
司はムスッとした顔をする。
というか、さっき恋が実ったばっかなのにそういうことするの早すぎない?
お前はずっと思ってくれてたかもだけど、流石に付き合ってその日に…ってのは宜しくない気がする。恋人達の平均期間とか知らないけど。
(それにキスだけであんなに気持ちよかったのに、その先ってなったら…俺、耐えられる?
頭おかしくなるんじゃないの?)
俺はさっきから手や頬をすりすりと触ってくる司にチラリと目を向ける。
が、次の瞬間、司がハッとした顔をする。
「え、待って。じゃあなんで昨日あんなに酔っ払いみたいにフラフラだったの?」
「押し付けられた仕事の疲れと寝不足と空気に酔った」
「つまり、あの発言全部シラフ?」
「まあ、そうなりますね」
司は俺に、はぁ!?と一瞬怒りかけるけど
「だって、そう装ったりでもしないと話せなかったから。ごめん」と謝ると何とも言えない顔をした。
すまんな、経験値0のヘタレなんだよ。
文句は受け付けません。
「あとさ、コウさん。この際だしずっと聞きたかったから聞くけど名前は?オレ コウさんの本名も知らない」
「え!?嘘だ、それも言ってなかった!?」
「聞いてないしついでに言ってない」
「マジかよ。んな事ある?」
「だって俺らハンネが普通の名前っぽいからそんな違和感なかったし」
「確かにそれで成り立ってたしね。でも俺ら名前知らないのに1年間ぐらい一緒にゲームしてたの?怖っ」
「それは確かに。一応何度か聞こうとしてたんだけどな」
「じゃあ聞けよ」
「毎回はぐらかされてたんだよ」
俺は衝撃の事実に驚く。
でも確かにそう言われればコイツの本名知らないと今更になって気づく。ついでに誕生日も知らないし、ぶっちゃけ何も知らない。
初めはゲームするだけの仲だったし呼ばれている事さえ分かれば支障が無かったし、会話も成り立ってたから全然疑問も持たなかった。
言われた通りお互いのハンネも普通の名前っぽいし、そもそも俺が自分の事を積極的に話すタイプじゃないし。
(じゃあお互い知ってるのって、社会人と学生やってる事ぐらい?)
随分と希薄な繋がりだったなと思う俺は他人への興味のなさに絶望と恐怖を抱いていると、
『西条裕司 。衣編に谷に司でユウジ』
と司が説明しながら空に字を書く。
「俺の本名。俺の事『司』って呼ぶのコウさんだけだからそれも特別感あっていいけど、やっぱり裕司って呼んでくれたら嬉しい」
「本名知らないんだって衝撃の事実に死ぬ程驚いてる。西条裕司か…」
俺は『西条裕司』と何度も心の中で唱える。
一年間呼び続けた『司 』とは違い、違和感と擽ったさを感じる。
まさかゲームで繋がった仲間がたまたま隣の部屋にいて、現実でも繋がって、いつの間にかそれが恋人になるなんて全く想像してなかった。
(ゲームも捨てたもんじゃないな)
名前もきっと違和感なく呼べる日がそう遠くない未来に来るだろうなと自然に思った。
「で、これからコウさんの事も色々知りたいんだけど、まずは名前 教えてくれない?」
「え、別に俺は『コウ』のままでも…」
「ダメ?」
「ダメじゃ、ないけど」
おい、あざとく首傾げんな。可愛いかよ。
あといちいち『俺が恋人だ』と教えるように触ってくるの 今はやめろ。心臓が持たないから。
「司、近い」
「違う、『裕司』。ほら、もっかい呼んで」
「…裕司」
「コウさん、照れてて可愛い」
益々『好き好きオーラ』を全開にする彼は俺を腕の中に収める。
心底幸せそうなとろけた顔をする司に、俺も呆れた顔をしつつ嬉しくなってしまう。
俺なんかで本当に良かったの?と今でもずっと思ってしまうが、この顔を見ると安堵する。
「裕司」
ゲームで一緒に冒険してきた司と、今度は現実で色々と思い出を重ねていけるんだと思うと、冒険に出発する前の主人公の様に緊張と少しの不安。
それを消し去るぐらいの楽しみで胸が高鳴る。
恋愛初心者でも、きっとコイツとならどうにかなるし楽しめるはず、と俺は思いたい。
「現実でも、これからも宜しくな」
ずっとこの関係が続きますように、と願いながら俺は飾らない笑顔を恋人に向けた。
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