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想いは届くというけれど

「コウさん」 「な、何?」 「好きです」 「知ってる」 「じゃあ何で顔合わせてくんないんですか。 こっち向いて。お願い」 ぎゅうっと後ろから包み込む様に抱き締められる俺は『いやいや』と否定する。 ゲーム中というのもあるけど、司と面と向かって顔を合わせて平然を装える自信が全くない。 自覚をしたら最後。今までみたいに近くにいるだけで恥ずかしくて逃げ腰になるし、目が合うだけで気持ちがバレるのが怖くて逸らしてしまう。 その低くて心地よい声で名前を呼ばれるだけで嫌でも体温が上昇してしまうし、笑いかけられると向こうにも伝わるんじゃないかというぐらいバクバクと心臓が煩く痛い。 (俺の顔、絶対赤い。無理、そんなの恥ずかしくて見せられない。大体今絶対変な顔してる、絶対キモイ) あの日、ぶっ倒れた俺はそのまま爆睡してしまい目が覚めると外がとても明るかった。 そして司はとても拗ねていた。 起きた瞬間は昨日のは全部俺が勝手に作り上げた妄想とか都合のいい夢なんかじゃないか?と錯覚したけど、目が覚めた瞬間 ある日と同じ様に司に腕枕をされていて『好き好き攻撃』が酷さを増した事で現実だと実感した。 そんな俺は現在、自分の中に現れた恋心に脳内は大混乱中だ。 両思いなんだからとっとと付き合えや!と第三者の立場だったら絶対思うし言ってるけど、初心者には戸惑うばかりで動けずにいる。 (無理!顔が見れん!) 恋心を自覚してから、異様に司がかっこよく見えるのだ。元々超イケメンなんだけど。 笑うとキラキラと周りの空気が華やいで見えるし、ん?と首を傾げるしぐさは可愛くてギャップにきゅんとする。 真剣な表情には心臓は高鳴るし、男らしい色香を放たれるとくらりと目眩を起こしそうになる。 すまん、青年。俺には全て刺激が強い。 今も司が好き勝手に抱きついてきてるけど、気が気じゃないしさっきから動揺して手元が狂ってるからミスを連発してしまってる。 全滅したらお前のせいな。 「コウさん、好き」 「ちょ、あ…」 致命的な操作ミスした。やばい、これ負け… 「あぁーー…」 負けた。これで勝てばランク上がってたのに。 どうしてくれんだよ。全然集中出来なかったんだけど。 俺は溜息をついて、ゲームを止める。 これ以上やってもきっと負け続けるだけだ。 ランクが下がるのは遠慮したい。 「…お前、口説き慣れすぎててホント怖い」 「こんなにアプローチするの、後にも先にもコウさんだけですけど」 「嘘だ、ホストみたいに慣れてんじゃん」 「マジですよ。だって言い寄らなくても向こうから来るし」 うっざ!!お前は今 全人類の男を敵に回した! 「だからオレにとっても初めてなんですよ。 こんなに人に執着するのも、好きになるのも」 腹に回った腕に力が篭もる。 「でもコウさんもオレの事好きってことですよね?」 「は?何言ってんの?冗談は顔だけにしてもらえます?」 「心臓がさっきからめっちゃ煩い」 「煩いのはお前のだろ」 いつもより煩い俺の心臓に負けないぐらい速い司の心音が背中から伝わってくる。 「当たり前じゃん。好きな人とこれだけくっついてたらこうなるわ」 「あ、はい。そうですか」 「なんで敬語?」 俺はコントローラーをテーブルに置いて、そういえばと思い、首だけ動かして顔を合わせる。 改めて見ても、腹立つぐらい顔がいいなお前。 「そういえばこのゲームの事なんだけど、ルール違反したからお前負けな」 「え?」 「だってキスしようとしてきたじゃん」 まさか覚えてないとは言わないよな?と俺は圧をかける。 「過度なスキンシップはしないって約束したのに、あの時の司は獣みたいで怖かった」 「すみませんでした」 そこで司はスっと俺から離れて、床に正座の状態で頭を下げた。 相変わらず姿勢がいいコイツにへにゃりと垂れた耳と尻尾が見える。 「オレ、少しでも意識して欲しくて、負担になるのわかってても本気だって気持ち知って欲しくて。でも自分からアプローチすんの初めてだから自分勝手に行動して暴走して…本当にすみませんでした」 「だから今後、俺の事は小鳥に触るように繊細に扱うように」 「それは弱すぎません?」 「俺、被害者なんだけど、文句ある?で、負けたら何でも言う事聞いてくれるんだよね?」 ニッコリと笑みを浮かべる俺に司の顔がひくりと引き攣る。イケメンが台無しだ。 台無しにしてるの俺だけど。 俺は1つ息を吐いて、ヘタレながら呪いの言葉をかける準備をする。 「俺ね、かなり面倒なんだよね。自分からズケズケ行ってもいざ来られるとビビって避けるし、廃人ゲーマーだからイベント来たら他は全部そっちのけ。外に出たからないから服も最低限のワンパタでダサいし、生活スキルも基本ないから健康的な生活とは程遠い」 俺は眼鏡とヘアピンを取って髪を整えながら、それらをコントローラーの横に置く。 司は何が言いたいの?と首を傾げる。 「一度受け取ったら返品交換一切出来ない厄介品だよ。男同士だし、真面目な話すると俺を選んでも未来はないから。引き返すなら今だよ」 それでもいいなら、と言い訳を伝えた俺は震えるのを隠すように笑ってみせる。 「それでもいいなら勝負には負けてあげる。 俺の自由も半分あげる。だからお前のも俺に半分頂戴」 司から貰ったように俺も意を決して、一生分の勇気を振り絞って伝える。 「好きだよ、司。だから俺を好きになって。 これからもずっと俺と一緒にいて」 司はポカンとした顔をして、その後に泣きそうな顔で笑った。 「…それもうプロポーズじゃん」 「そんなつもりは一切なかった」 「それにオレ、もう全部コウさんののつもりなんでもう半分も受け取ってくれません?」 「いや、全部はちょっと…」 「そこは受け取れよ!」 司は俺の頬を包み込むように手を添えた。 「やべー、超嬉しい」 「ははっ、攻略乙」 「コウさん、ありがとう。死んでも手放すつもりないんでコウさんが覚悟しといてください」 「お前もな。面倒とか嫌だって思ってももう手放せないから覚悟しとけ」 「夢見たい…やっと手に入れられた」 嬉しそうに口元を緩ませる司の瞳は薄ら水の膜が張られていた。 それを見て、俺の胸は幸福感で満ちる。 世間からはズレてるし、正解か分からないけど。少なくとも今の俺らは幸せだという感情は間違いない。 「俺の初恋になるんだから、責任取れよ」 司は俺の額に触れるだけのキスをする。 「コウさんこそ、オレだけを見ててくださいね。よそ見なんてさせないけど」 「お前すごい余裕だな」 「だってオレ無しではいられないようにするつもりなんで」 「お前すごい自信だな…」 それ、序盤にも聞いた気がする。 実際にお前の手を取ったのだから、本当にそうなるようにコイツなら実行しそうだけど。 「コウさん」 至近距離にある司の顔に、昨日の出来事を思い出してしまい顔がじりじりと熱くなる。 「っ、ん…」 そして俺らはお互いの唇を重ね合った。

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