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第11話 どうもしないの
トロリと白濁が滴る。
童貞なこの人は、こんな扱き合いで射精、なんてしたことないでしょ。
がっついた。
止められなかった。
「ヤバイ」
衝動が。
「大須賀先生?」
止めらんなかった。
「……ごめん、大丈夫?」
「ぇ、あ」
何もかもが初めてのこの人は、何もかもに鮮やかなほど反応した。それがたまらなかった。
射精直後の息の乱れすら、興奮材料でしかない。陥没乳首が美味そうに赤く色づいた。ピンク色の初心な肌は今までの一人でする快感とは全然違う快楽に汗が滲んで濡れているようだった。
「っ」
肩に触れただけで、吐息が零れるくらいに感度の上がった身体を持て余して、童貞で何も知らないこの人はただしがみ付くように切なげに顔をあげる。
気持ち良くて、夢中になってくっつけて、擦り合わせて。
「……あの、大須賀先生」
一緒に扱きながらイった。
そして、残ったのは射精後の乱れた呼吸さえも拙く真っ赤になったこの人に対しての、なんだか熱っぽい苛立ち。
「ぁ……」
華奢で白くて小柄だけど、男だから。いつか、きっと、どっかの女を――。
「あの、大須賀先生」
どっかの女を抱くんだろう。
その小さな吐息混じりの声も。たどたどしい指先も。全部、そのうち誰かのものになる。
誰かのことを優しく抱くんだろう。この拙い手で抱きしめて、どこかの女がこの人の猫っ毛を撫でるんだ。
「シャワー、浴びてきたほうがいいですよ。こんなとこまで飛んでる」
「っ、ン」
勢いよく飛ばした白が胸の辺りにまで飛んでた。
それを指で掬い取ってティッシュでふき取ってあげると、それすら刺激と捉えて甘い吐息を零してくれたりするから。
だから我を忘れた。
「風邪引くから。ほら、インフルまだ余裕で流行ってますから」
「ぁ……の…………はい」
馬鹿、なの? 俺は。
酒飲んだからって、何してんの?
ホントさ。何してんの?
「…………何、してんだ、俺」
呆れながら、溜め息を零すと、シャワーの音がようやく聞こえてきた。
イラっとしてどーすんの? ねぇ、彼女が欲しいはずのこの人のことを、どーしたいわけ?
――保、俺、やっぱり。
ノンケじゃん。あいつと同じノンケ。だから、きっといつかは。
いつかはああなるんだ。いやだからやめた。もう二度と御免だから、ああいうのはもうしないと決めた。
なぁ、そうだっただろ?
「あの、大須賀先生、シャワーを……って、あの、帰られるんですか?」
身支度を整えていたら、湯上りでピンク色の頬をしたこの人が目を丸くしてた。
「えぇ、歩いて帰るうちに湯冷めするかもなので」
「……ぁ」
まだ一月。インフルも風邪もまだまだ流行ってるんだから。教師のほうが風邪引いちゃったらダメでしょ。
「それじゃ」
「あ、あのっ!」
靴を履いたら、慌てて駆け寄ってきた、彼女が欲しいはずのこの人のことをさ、俺は、どーもしない、でしょ?
「髪、ちゃんと乾かしてくださいね。風邪引く」
ほら、触れたら指が濡れた。
この人が手に持ったままだったタオルの端で、また髪の先から落っこちそうな雫を受け止めて、笑って、靴をしっかり履いた。
「酔ってましたから」
「……」
よくあるでしょ?
酔った勢いでっていうやつ。アルコールでホロホロに解けた理性は全く機能せず、ただその場の雰囲気からの流されセックス、なんてその辺にゴロゴロ転がってる。
そういった類のあれだった。
別にそこにはそれ以上のものは何もなかった。
ここからそれ以上のことも何も起きない。
ただそれだけのこと。大人同士、ちょっと羽目を外してしまっただけのこと。そう、「酔ってましたから」の一言で片付けた。真面目なこの人が何かおかしなことを言い出す前に。真面目に考えすぎたりしないように。
「またマッサージ付き合いますよ」
「……」
だから気にしないでと笑顔で、おやすみなさいと言って部屋を出た。扉はサッと締めて、振り返ることはしなかった。湯冷めしちゃったら大変だから、もちろん見送りもしなくていい。施錠だけしてもらえればさ。
「さむ……」
外に出ると北風がきつくて、身震いがした。たった今までいた場所とあまりに違うもんだから、肩が自然と縮こまるし、背中は丸まるし。溜め息は吐くと真っ白になって邪魔くさい。
「さみぃっつうのに……」
なのに身体の中にはまださっきの熱が居座っていて、どっからともなくあの人の匂いがするし、掌にはあの人のトロトロになった感触が残ってるし、指は白い肌のしっとりと吸い付くような感触、舌先にはピンクの粒の硬さが残ってて。
「……どこがマッサージ、だっつうの」
――あ、そんなの、わかんなっ。ぁっ……ンっ。
耳にはあの人の甘い甘い声が残っていた。
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