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第28話 純朴先生の生態観察、艶バージョン
あの人の、ふにゃりと笑った顔に、胸の奥で小さな花火がパチパチと音を立てて、火花が踊るように感じる。
天然で、初心で。ついこの間まではただの純朴先生だったのに。キスひとつで真っ赤になるくせに。色気からは程遠い雰囲気だと思っていたのに。
――保さん! それでは、先にお風呂頂戴いたします!
いつもはゆったりとまぁるく弧を描く眉をキリリとさせて、いざ、風呂場へ、なんでか鼻息も荒く入っていくような楽しげな天然なのに。
セックスとなると、あの人は。
「慶登?」
ってさ、風呂、長くないか?
夕飯を外で済ませて、うちへ泊まることにした。慶登を先にシャワーへ……って、思ったんだけど、それにしても長いだろ?
「慶登? 大丈夫か?」
「ひゃわっ、わっ、わっ」
「?」
曇りガラスの向こう返事はあったし、呼ばれて身じろいだのがシルエットから伺えた。
「は、はいっ、はいっ、今、あの、うわぁぁぁぁぁっ!」
「慶っ、……」
「はぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
体調でも悪くなったのかと思った。
「な……」
いきなり中からさ、叫び声が聞こえたら、慌てるでしょ。いきなり開けたらびっくりさせるかもしれないけどさ。
でも、まさか。
「何、してんの? 慶登」
足をすべらせたんでしょ? それで、慌ててシャワーヘッドに掴まってる。太腿の内側をやけにトロリとした透明な何かでびしょ濡れにして。
「っ」
問われて真っ赤になったこの人の内腿から伝っているのは、たぶん、ローション。問われて真っ赤になった理由はたぶん……。
「指……して、みたんです」
「……」
「きょ、今日するだろうから、準備しないといけないって思って、僕、ローションを朝デートの前に買ってきた、ので、その、しようと思って」
楽しげな天然系の純朴そうな人なのに。セックスとなると、この人は。
「指、挿った?」
なんでこんなに、たまらなく可愛いんだろう。
不器用で、そそっかしくて、危なっかしいこの人が艶めいて、触れたくてたまらなくなる。触れて、独り占めしたくなる。
「っ、ちっとも、入らなくて、ローション足りてないんだと思って。たくさん使ってみたんですけど、全然、やっぱり入らなくて。でもちょっとだけ入ったんです。なのに、あの……保さん、濡れちゃいますよ?」
湯けむりのせいなんだろうけど、この浴室丸ごと、タイルも空気も、何もかもがこの人の熱に濡れてるみたいに思えた。
「指、入ったのに、気持ち良くなかった?」
タイルに手をついて、全裸のこの人の行く手を全て阻むように壁へと追い詰める。素肌がほんのり色づいていた。耳が真っ赤で、のぼせてるんじゃないかと心配するくらい。俯いていて、表情はわからなかったけれど。
「気持ち、良くなくて、ちょっと心配になりました」
コクンと頷いてそう言ったこの人に、俺のほうがのぼせそうだと思った。
「保さんがしてくれた時、準備でもすごく気持ちよかったから」
ゾクリとして、熱が込み上げてくる。
「あと、ちょっとだけ知りたくて、僕の中、どんな、なんだろうって」
この人の色香に当てられて火照って、独り占めしたくて、したくて、たまらなくなる。
「保さんのおち……ん……ち、が入るから、どんな、なのかなって」
「ぁ、あっぁぁっ……ン」
あっまい声がタイルに反響して、湯気の溜まった小さな個室の中がどんどん濡れていく。
「やぁっ……ン、ぁ、お尻に指」
「ローションすごい使ったんだ。ここびしょ濡れ」
「ひゃぁぁっン」
二本の指を飲み込んで、その指の付け根まで全部内側に突き入れると背中を反らせて、濡れたタイルに爪を立てる。音もなく、掴めるわけもなく、ただ何度も悪戯に白いタイルの上を白い指が滑ってた。
タイルに押し付けるように、その手に手を重ねて、もう片方の手で中をぐりっと刺激する。柔くて、濡れて、熱い内側の一箇所。
「あ、あ、あっ、ひゃぁぁぁっン」
前立腺を指で舐めるように擦ると、甘い悲鳴が溢れて響いた。
「あっン」
仰け反るこの人の肩に歯を立てて、その歯が食い込む刺激に身悶え、噛んで欲しそうにうなじを晒す。
「くぅ、ン」
そのうなじにキスをすると、また可愛い声で啼く。
「ぁっ……保さんっ」
啼いて、俺を呼んで、二本の指にその敏感な内側がしゃぶるように絡みつく。
「もっと……保さんの指、気持ちイイ」
ねぇ、そんなふうに言われたら興奮ではちきれそうになる。タイルにしがみつくようにくっ付いて、肩を竦めながら、振り返るこの人の艶めいた表情に、思いきり喉を鳴らしてしまう。
早く、この人の中に挿れたくなる。
「ン、ぁ、そこっ」
ほら、腰、揺れてるよ?
前立腺を擦り上げられてたまらない? 腰をくねらせて、自分からも中を指に擦りつけてるけど?
「ひゃぁ、ぁ」
浴室にある鏡越しに身悶えるこの人を見つめたら、この人を見つめる度に胸の奥でパチパチ散る火花がまた踊った気がした。
鏡越し、明らかに揺れて、気持ちイイを欲しがる身体に熱が上がってしまう。
前立腺をもっと可愛がられたいって、腰をくねらせて、孔の中で指に吸い付くこの人の無意識のうちに溢れて零れる色気に当てられそう。
「そこ、好き、ぁ! んんんっ」
早く、挿れたい。
「ン……好き」
セックスに誘うための計算なんて知らないはずなのに。
「保さん……ン、も、そこ柔らかい、ですか? もっと準備しないと、ダメ?」
バチバチ火花が身体の内側で踊る。
「保さんの大きいの、僕のお尻にはまだ、入りませんか?」
タイルに甘えるようにぺたりと掌をくっつけて、熱いのかタイルに縋って額を当てながら振り返った慶登の甘い甘いおねだりに、艶っぽく濡れた視線に。
「まだ、挿れちゃ、ダメ?」
きゅぅぅんと切なげに、咥え込んだ指を締めつける柔い身体に、理性が一瞬で蕩けた。
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