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第1話【春松鷹と上林綾は恋人だ *】

 恋人である上林(うえばやし)(あや)の部屋に、春松(はるまつ)(たか)はいた。 「はる、ま──ん、あッ」  春松が腰を引くと、ベッドの上で組み敷かれている上林が体を震わせる。  高校生らしい若い肌と肌が、引き合うかのように。二人はどちらからともなく、互いへ触れた。 「春松、もっと。……強く、抱いて……っ?」  体をほんのりと赤く染めた上林が、自身の上に覆いかぶさっている春松の背に腕を回す。春松も春松で、そんな上林を壊れ物へ触れるかのように抱き締めた。  ──それでも、上林には足りない。  せがむような視線と声に、上林は応えてもらいたかった。 「上林、好きだ」 「んッ、あぁ……ッ」  春松が上林を強く抱き締めると同時に、上林のナカに突き挿れられた熱が、さらに深いところまで届く。  何度も春松と体を重ねた上林は、後ろで快感を得られる体になってしまった。……だからこそ、上林は快楽に身をよじる。  そんな上林の様子に気付いた春松が、満足そうに小さく笑う。 「ん、ぁ……ず、るいよ……ッ」 「狡い? なにがだ」 「普段は、そんな顔……見せてくれないのに、こんな時だけ……あッ」  冷静沈着な春松が表情を変えるのは、極めて珍しい。ゆえに、上林は悔しそうにしているのだ。  春松の黒い瞳が、上林の潤んだ瞳と不満げに尖った唇を捉える。そしてまた、春松が小さく笑った。 「すまない。可愛くて」 「かわ……ッ! そっ、そういうのも……ずる、い……あ、んッ」  ムッとした唇にキスを落とすと、春松が角度を変えて上林を穿つ。  この部屋に来てからもうずっと、壊れ物のように扱われていた上林は……限界、だった。 「春松、はる、まつ……ッ! お、ねが……もう、僕……ッ」 「あぁ。……俺もだ」 「あッ、や、あぁッ」  大好きな恋人に強く抱き締められながら激しく体を貫かれ、上林は嬌声に似た声を漏らす。  もう一度唇を重ねた、その時。二人はどちらからともなく、劣情を吐き出した。  * * *  冬になり、日の落ちる時間が早まった外を眺めていた上林が、顔を上げる。そばにいた春松が、帰り支度を済ませたからだ。 「途中まで、送って行きたいんだけど……」 「そうしたら、俺はお前をこの家まで送る」 「ヤッパリそう言うよね、ふふっ」  部屋着に着替えた上林の頭を、上林に対してだけ過保護な春松が無表情のまま撫でる。 「いつも処理を任せてすまない」  ──それは、先ほど役目を果たしたばかりのコンドームに対してだ。  春松の熱が零れないよう縛られたコンドームを見てから、上林は春松を見上げた。 「ううん、気にしないで? 僕が好きでやってるんだからさ」  二人で並んで歩き出し、玄関へ向かう。  靴を履いた春松が、もう一度上林の頭を撫でた。その手つきに、上林は堪らず笑みをこぼす。 「ふふっ。……じゃあ、また明日」 「あぁ、また明日。学校で」  手を振り合った後、春松が外へ出る。  扉が閉まり、春松の姿が見えなくなった後。ほんの少し寂しそうな目をしたまま、上林は自室に戻った。 「さて、と……」  ベッドの上に乗っている使用済みのコンドームを手に持ち、上林は机に向かった。そして引き出しから、ハサミと小さな試験管を取り出す。  ──そのまま手にしたハサミでコンドームを切り、中に入った春松の精液を……上林は嬉々として、試験管へ移した。 「ラベルに今日の日付を書いて、試験管にペタッと。……あっ、ゴムの入ってた袋にも日付書かなくちゃ」  上機嫌に、上林が独り言を呟く。キャッキャッとはしゃぐ、子供のような無邪気さで。  ──上林は上機嫌なまま、自室に残された春松の痕跡を【収集】し始めた。

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