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心細さに吐き出した息は白く烟った。
桂木 理津 は駅前の通りでぼんやりと立ち尽くし、視線は忙しなく彷徨わせていた。
雪のない冬は、どこか異国の地に来たような錯覚を呼び起こす。
ビル群に囲まれた街並みの圧迫感。止まることのない人の流れ。テレビでしか見た事のない光景が、理津の眼前を占めていた。
魚群のような人の群れを見据え、理津は叔父である佳孝 の姿を探す。
土曜日ということもあり、駅前は休みを満喫する若い男女の姿が目立つ。都会という場所なだけあって、どの人も洒落て目に映る。
理津は自分の姿を見下ろした。おかしくないだろうかと不安が過る。
学校の制服でも着物でもない。白のタートルネックの上にキャラメル色のダウンコート。黒のパンツとシンプルなデザインのスニーカー。別段おかしくはないだろうが、この場にいると浮いているように思ってしまう。
「理津」
名を呼ばれて顔を上げると、上手い具合に人の波を掻き分ける長身の男の姿が目に止まる。
笑顔でこちらに近づく佳孝の姿に、理津は全身が安堵で弛緩した。
「待たせてごめん。道が少し混んでいてね。早めに出たはずなのに、到着が遅れてしまった」
理津は黙ったまま、首を横に振る。いつもと違う状況のせいか、上手く言葉が出てこない。
やっと会えて嬉しい。ずっと会いたかった。
内心では歓喜に胸が弾んでいた。それを口にはできず、理津はほぞを噛む。
「大丈夫か? 寒かっただろう。とにかく無事に来れてよかった」
とりあえず移動しようと続けた佳孝に促され、理津はぎくしゃくと足を動かす。
慣れない人混みの中で、佳孝の姿を見失わないように必死で付いていく。
理津の住む山に囲まれた地は、冬になるとスキー客で賑わう。それでも周囲に何もないせいか、人が溢れるような状況に陥った事がなかった。
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