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「ごめん。早いか?」
そう言って、佳孝が更に速度を落とす。周囲の人間が二人をどんどん追い抜いていく。
「大丈夫」
「都会暮らしが長いせいか、周囲に合わせて歩調がどうしても速くなる。ごめんな」
佳孝はすまなさそうな笑みを浮かべる。
「別に平気だよ」
本当だったら腕にしがみ付きたい気持ちもある。だが、周囲の目もあって、それは叶わないことだった。
なんとか車を駐車した場所に辿り着くと、理津は緊張した面持ちで助手席に乗り込む。
母の買い出しの手伝いで、車には頻繁に乗っている。車でないと不便で、理津も必要だからと誕生日を過ぎてすぐに教習所に通っていた。
にも関わらず、佳孝の運転する車というだけで胸が高鳴り、なんだか特別なことをしているように感じた。
「いつか理津の運転する車に乗りたいな」
アクセルをゆっくり踏み込んだ佳孝がぽつりと呟く。車体が心地よく滑り出し、都会の複雑な道に繰り出した。
「まだ先だから。それにこんなところ、絶対に走れないよ」
都内の道は車通りも多く、道も四車線に分かれていた。人通りも車通りもそこまで多くない地元での訓練など、ここでは役に立ちそうになかった。
「慣れだよ慣れ。逆に僕はそっちの方が怖いよ」
理津の住む地域は積雪が酷い。タイヤをスタットレスに変えてチェーンをつけたとしても、一歩間違えれば危険であることに変わり無かった。
「でも命がけで会いに行くって、なんだかロマンチックだと思わないか?」
「ロマンチックって言い方が古いと思う」
照れ臭さを隠すように、理津はぽつりと呟く。
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