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 雪の降る時期になると佳孝は嘘をついて、理津の住む旅館に泊まりに来ていた。 ――取引先に寄ったのは良いけれど、積雪が酷いから泊めてほしい。  理津の母親でもあり佳孝の姉に、佳孝はそんな言い訳を口にする。  きっかけは母親の厳しい躾を知った佳孝が、理津を庇ったことだった。孤独に苛まれていた理津は佳孝に依存し、自らの身体を使って佳孝を繋ぎ止めたのだ。  叔父で既婚者という立場の佳孝。いつこの関係が破綻するか分からない。行先は闇しかない。それでも理津は自ら離れることは出来なかった。  だから年に一度、雪が止むまでの間だけ、佳孝と二人だけの短い時間を過ごしていた。 「そんなことないと思うけど」  佳孝は少し不満げに首を傾げる。 「向こうはもう雪が積もっているんだろう? こっちは全然降らない」 「降ったら降ったで不便だよ」 「まぁーそうだけど……あっ、でも明日は雪らしい」  雪予報だと聞いて、つくづく自分は雪と縁があると理津はげんなりした。 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。毎年、明日は大雪ですとか言うわりには、降らないことの方が多いから」 「本当に?」 「ああ。せっかく出かけるんだから、本当だったら晴れた方が良いけどね」  少しがっかりした佳孝の横顔に彼もまた、この日を楽しみにしていてくれたのだと胸が熱くなる。 「僕は佳孝さんが一緒なら、天気なんてどうでもいい」 「僕もだよ。来てくれて嬉しい」  赤信号で車が止まると、佳孝の手が理津の手を握る。泣きたくなるほど心が弾み、全ての苦労が報われた気がした。 「大変だっただろう。姉さんを説得するのは」 「大変だった。でも……佳孝さんに会いたかったから」 「ありがとう、理津」  信号が青になったことで、佳孝の手が離れてしまう。心細くもあったが、すぐ近くにいると自分を慰めた。 「姉さんにはなんて言ったんだ?」 「友達と……東京に卒業旅行に行くって言った」 「……そうか」  少しだけ佳孝の顔が曇る。

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