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背後から佳孝に抱きしめられながら、理津は窓の外を見つめる。
「雪……凄いね」
理津はぽつりと呟く。地元は重たい雪がバラバラと降るが、こっちの雪は軽くフワフワと舞っている。それでも視界を閉ざすような勢いだった。
「理津」
名前を呼ばれ、理津は訝しげに首だけ後ろに向ける。
「雪が止むまで、そばにいるよ」
「でも――」
香苗さんは、という言葉に続くより先に、佳孝が首を横に振る。
「明日も雪が降っているようなら、一緒にここにいる。電車が動くまで、傍にいるよ」
「……良いの?」
嬉しい気持ちもあるが、一方で不安もあった。家では香苗が待っている。帰ってこない佳孝に、疑問を抱かないはずがない。
「大丈夫だよ。理津は気にすることはない」
宥めるように佳孝が告げる。
硝子越しに映る佳孝に視線を向けると、同じように佳孝が硝子越しに理津を見ていた。
「止まないといいな」
ぽつりと呟いた佳孝の発言に、理津は佳孝を見た。
「雪――理津もよく言っていたけど、僕もそう思う」
「寂しいと思ってくれるの?」
「当り前だろう。でも今は……いつも見送る側の理津の寂しさが、よく分かった気がするよ」
佳孝に優しく微笑まれ、やっと自分の思いが届いたような気がした。
「全てが片付くまで……待ってくれる?」
佳孝の問いに、理津は何度も頷く。
「ずっと……ずっと、待ってる」
窓に背を向け、佳孝と向き合う。涙が溢れてボタン雪のように落ちていく。
「今度は春に会いに行くよ」
佳孝の言葉に、理津は「夏は?」と聞く。
「夏も会いに行く」
「秋は?」
「秋も……冬も会いに行くよ」
嗚咽が溢れ、理津は崩れるようにしがみつく。支える佳孝の手は力強く、温かかった。
もう雪に左右されることはない。雪の呪縛は溶けたようだった。
理津は生まれて初めて、春が待ち遠しいと思った。
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