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ダンジョン編ー見習い騎士メルト― 第1話

 俺はメルト。  ラーン王国の王都ララリアに住む雇われ御者の家に生まれた第3子だ。幼いころに新年の行事である、騎士団の新年の決意式を見た時、その一糸も乱れぬ行進と揃いの白銀の鎧に憧れ、騎士になりたいと思った。入団試験を受けて、幸運にも騎士団に入団できた。  ガリガリのガキだった俺の手足がひょろっと伸び、騎士団で出される食事で腹をいっぱいに出来たために、そこそこ肉がついた俺は17歳になった。見習い騎士から正騎士への採用があと1~3年という時期だ。  身長は170cmほど、体重は見た目はそんなに筋肉はついてないように見えるが65kgと同じくらいの同期のフィメルより身長は高く体重は重かった。  髪は金髪で前髪は額が少し出るくらい、全体は顎くらいの長さでやや短めにしている。目は翠色で、この目の色だけは自分でも気に入っている。  この世界は知的生命体は両の性とも子供が産める。見た目はほぼ変わらない。正しくは卵で産み、孵るまで魔力を注いで育て、卵を割った中から出てくるのは歯の生えた幼児で伝い歩きができるほど。言葉はそれから半年ほどで覚える。どちらの性で生まれたのかは10~13歳位に訪れる発情期と精通によって決まる。  発情期が先に来たものがフィメル、精通が先に来た者はメイルだ。  フィメルに生まれた者は卵を産む役割を担う。メイルに生まれた者は一生に一度、発情期を迎えるかどうかで、メイルは受け入れる方になると最初に受け入れた者としか番うことしかできなくなる。だからメイルで卵を産む者はほとんどいない。そのため娼館にはフィメルしかいない。  俺は13歳の時に発情期が来た。以来抑える薬を飲んでいて実感はない。半年に一度、一週間ぐらい続く。身体が熱くなっていてもたってもいられなくなる。  最初は風邪かと思ったら発情期だと診断された。薬は騎士団からの支給だ。  同期の仲のいいフィメルのミランが一足早く発情期を迎えたので色々教えてもらった。  それ以来薬を欠かさず飲んで、発情期はないに等しい。精通は来たのかよくわからない。あってもなくてもフィメルなのだから必要ないだろうと思う。  はっきりした性がわかるのは生殖器官の成長によるのだが、大体生まれた時になんとなくそうじゃないか、と本能的にわかる。親もそうだし、自分でもなんとなく、自覚があって、発情期を迎えた時にああ、やっぱりと思った。  だからガキの時も、フィメルはフィメル同士、メイルはメイル同士で自然と友人関係を作っていく。たとえ外見がフィメルらしさからは遠のいていても、そこは本能に根ざす部分なのだろう。   「メルト、明日、ダンジョン実地訓練の前の休暇だろ?どっか繰り出さないか?」  ざわざわとした、騎士宿舎の食堂だ。夕食を食べている俺に同期のロステが声を掛けてきた。 「ん、明日は道具の手入れするから。」  俺は訓練前の大事な休養日に遊びに行く必要性は感じなかったので、首を横に振りつつ即座に断ると何やらひどくがっかりした顔ですごすごと去っていった。  そのロステをロステと仲のいいリスクとスラフが両脇から挟んでなんやかやと話している。  ロステはメイルでリスクとスラフもメイルだ。フィメルの俺より背が高く筋肉がついた体つきだ。ロステは茶色の髪で目も茶色、顔にそばかすがある。  リスクは銀髪で、薄い青色の目でやや甘い整った顔をしている。  スラフは二人より背が低くがっしりした体形で、やや角ばった顔つきで短くかった髪はこの辺りでは珍しいこげ茶で、目もこげ茶だ。少し羨ましく見て自分の腕に視線を落として、ぐっと拳を握る。 (明日は手入れのあとトレーニングだな)  俺は休みの日にはたいてい剣を振ってるか、身体を作るトレーニングをしているかで過ごしている。他の団員はよく街に繰り出して気分転換をしているらしい。  まあ、俺には関係ないが。剣を振っている時が一番楽しい。強くなることが楽しい。だから俺は思春期の真っただ中であるということに気付くこともなく、自分の同期達が伴侶や恋人を作ろうとしていることにさえ、気付くことはなかったのだ。 「メールト!明後日の演習同じ班だね。よろしくー!」  同期のミランが声を掛けてきた。振りかえると背の半ばまである赤味がかった金髪を後ろで一括りにし、灰色の目でにこにことこちらを見ていた。  身長が160cmの小柄な均整の取れたしなやかな体躯をしていて弓が得意な弓術士だ。  馬上からほぼ百発百中の確率で的を射ぬける才能を持った期待の見習い騎士だ。 「ミラン、よろしく。」  そういって、俺はまた食事に戻る。ミランは横に座って来てにやにやとこっちを見ている。 「なんだ?あげないぞ。」  俺が食事の乗っているトレーを腕で囲うようにすると、片肘をついていたミランは肩を竦めて、首を横に振る。 「もう済んだよ。いや、ロステにデートに誘われてたんじゃないのかって。振っちゃったの?」  俺は首を傾げてミランを見た。デートっていうのは恋人同士や伴侶がするものなのに、ミランは何を言っているのか。 「街に遊びに行かないかって言われただけ。明日は演習前の道具の手入れしなくちゃいけないし、演習前だから体調を整えないと…」 「メルトは真面目だね。みんな遊ぶことしか考えてないよ。」  ミランはくすくす笑ってそういうけど、好きなことをやってるのだから、別に真面目ってわけじゃないと思うけどな。 「そうかな?」  首を傾げて聞き返すと、俺は残りの夕飯を掻き込んでトレーを持って席を立つ。少し休んだら、日課の夜のトレーニングをして、それから… 「メルト―?少しは剣以外の事、考えた方がいいよ?特に―――」  これからの予定を考えながら食堂を出ようとした、俺の後ろ姿にかけられた言葉は俺には届かなかった。

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