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ラーン王国編ープロローグー 春を売る 前編※

 僕は娼館で春を売っている娼人だ。もちろんフィメル。僕の生まれた村は農村で、貧しかった。貧乏農家の第3子に生まれた僕は発情期が来てフィメルとわかったと同時に娼館に売られた。  そこそこ容姿がよかったせいもある。ややオレンジ寄りの金髪で、大きい目はブルーだ。左の目元にほくろがあって、卵型の顔、白い肌は透けるようで、細身(ただ単に食べるものがなかった)だった。  下働きから始めて、いろんな技能を覚えさせられて、恥ずかしさとか、倫理観とか、メイルに対する夢とか、結婚とか、全て諦めさせられた。  いや、借金をすべて返せば自由になれるし、誰かの愛人に身請けされれば、娼館からは出ていける。でも生活は同じだ。借金を返しても、どうやって生きていけるのだろう。僕は、身を売ることしか知らないのに。  そんな僕には生まれついてのスキルがあった。最初はそういうものだと思っていたけれど、どうやら、僕にだけ、見えるものだった。  いや、正確にいえば見える者には見えるモノ、だった。  僕には魔力が見える。人の魔力の色が。  それは魔力視と呼ばれるスキルで、魔法に長けたものに顕現しやすいスキルだった。僕はそれほど魔力自体は多くないし、生活魔法を使うのに困らない程度しかない。魔法の属性は祝福を受けてないからわからない。  何故スキルだとわかったかといえば、魔術師団に属している魔術師がお客になったからだった。青色がうず巻いてて魔術師の顔がよく見えなかったから、つい言ってしまったのだ。  その言葉に驚いた魔術師が教えてくれて、見えているのがその人固有の魔力の色だとわかった。それでいろいろ教えてもらったのでサービスをした。  魔力がもう少し多ければいい魔術師になったのにと言われた。魔力視は魔法を使う上でとても役立つのだそうだ。  魔力の色は人によって全然違う。その人の持つ属性を基本に様々な色が混じり合っている。空にかかる虹の中の一色がほとんどの人の魔力の色だ。  たまに、二色、三色の人もいるが、平民にはほとんどいない。色のついてない魔力もほとんどいない。ほとんどというのは僕が見たことがないだけで、いるかもしれないからだ。  魔術師に教えてもらったことで重要な事があって、魔力の相性と、魔力交換による快感の関係だ。  あまり知られてなかったが、伴侶としての相性は魔力の相性だという。平民は魔力の量が少なく相性の悪さが顕著ではないけれども、卵ができなかったり、セックスが気持ちよくないとか、そういう現象が知られている。発情期で卵ができないのは最悪の相性だからということだった。  僕はその魔力に干渉ができた。無意識で行う魔力の交換を意識的に行って相手を先に昇天させてしまうのだ。  また、相性の良くない相手は魔力が自分に入ってこないようにブロックして相手の魔力が相手に回るようにした。  口や手で行う時も快感を増すように魔力に干渉した。魔術師に魔力操作のやり方を教えてもらったらスキルが芽生えたらしく、今まで無意識にやっていたことを、意識的にできるようになった。  そうしたら指名が増えた。僕はまだ店に出始めてそんなに経っていないけれど、かなりのお金をもらうようになった。もう1、2年したらこの娼館、“常春の館”のナンバーワンになれるのではないかと噂されるようになった。思ったより借金は早く返せるかもしれない。  自由になったら誰か伴侶を見つけることはできるのだろうか。  子供を持つことはできるのだろうか。  そんな些細な夢しか、持てないけれど。  夢を持つことは許されるのだろうか。  春を売ると言われる娼館の一日は昼から始まる。  最後の客を送り出した後仮眠をして起き出すのが昼だからだ。  朝の食事は見習いが用意する。下働きは娼人が食事をしている間に部屋を掃除する。  浄化の魔法を使ってやるけれど、浄化の魔法は使用者によって効果にばらつきがあるから綺麗にならない子もいる。  僕は浄化の魔法は得意だから、終わったら一通り自分で綺麗にしてしまう。その方がすっきり眠れるしね。だから、下働きの子に慕われている。魔法の扱い方も教えてるからね。  その教えてくれた魔術師さんは時々やって来るお得意さんになった。 「ヴェスナ。お客だ。」  娼館の開館時間は5の鐘(18時)からだ。僕たちはそこから夜明けまで、2~4人の相手をする。客が支払う料金のコースで時間が変わる。そこで本番があるか、手で済ますのか、色々だ。娼人によっては相手をイかせるだけイかせて自分に挿入はさせないようにするものもいる。そうやって人数を稼ぐこともできる。基本は相手を満足させることだから相手主導の場合もあるし、ケースバイケースなんだけれど。  お金は十分もらっても相手次第で早く終わることがある。そういった客は娼人からはいいお客さんで、その人の恋人にはあまりいい事ではないかと思う。  この人はそんな客の一人だ。  初めてが僕で、多分、それ以降娼館でしか経験がない人だ。そういったことは娼人にはわかる。だてに毎日いろんなメイルの相手をしているわけじゃない。  そういう素人を相手にしたことがないメイルは基本的にグラスだ。草原に生えている草だ。自分からは動かず、されるがままっていう感じが風になびいてる草原のようだということで、グラスらしい。  経験があるメイルはたまにこっちを乱れさせるだけ乱れさせて、翻弄するからかなりこっちが消耗してしまう。  なので、娼人的にはグラスの、早いお客さんがいいお客さんなのだ。 「よ、久しぶり。やっぱりヴェスナが一番だな。」  にこにこして人当たりのいい笑顔を振りまく。顔はそれなりに整っていて、長身で、髪は後ろで一つに括って腕の付け根ほどまである。髪の色は青みがかった銀髪だ。目の色は青灰色。がっしりした体躯は騎士という彼の身分に見合ったものだ。  彼はリンドといった。  第一騎士団に所属していて、正騎士になって二年目。僕より5つは上だった。  彼とは、僕が客を取るようになったばかりの頃、正騎士になった祝いだと、騎士の先輩らしき人に連れて来られたのが初めてだった。  もう少し初々しくて、がちがちに緊張して、身体を繋ぐ前に暴発して、いろいろ大変な夜だった。  でも… 「凄かった。ヴェスナ。また来る。お金貯めて絶対。」  そう言って帰っていった彼は、宣言通り何度も来た。娼人のテクニックで早漏もかくやとばかりにイかされているのにも気づかずに、楽しそうに通ってくる。  たまに僕以外の娼人ともしてるようだけど(来た時僕が塞がっていることもままあるため)やっぱり早く終わってるらしい。そして喜ばれてモテモテだ。  ほんとは、こういうのがほんとのセックスじゃないと教えてあげたいけれど、お客と娼人の関係だから誰も言わない。  彼が恋人とする時があったら、ちゃんと気付いてほしいけど。  娼人はキスはしないから彼もキスを知らないようだった。することは知っていると思うけど、先輩騎士にしないのが礼儀と教わったらしくて強請られることはない。  だから安心しているのになぜだかもやもやしている。この彼だけに。

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