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ラーン王国編ー見習い期間の終わりー ロステと昼飯

 翌日、普段着で(単なるシャツとズボン。一応短剣は腰に差している)裏門に向かった。  裏門の前でウロウロしているロステがいた。  なんだあれ、見世物小屋のクマか。  一瞬帰ろうかと思ったが、約束したから仕方ない。 「…待った?」  グルンと勢いよくロステが振り返った。なんだか服が真新しい。 「い、いま来たところだ!」  なんで声が裏返ってるのかよくわからないな。 「行こう?」  促すとぎこちなく歩き出したロステに続いて、俺も門を出た。  裏門から平民の飲食店が立ち並ぶ通りに出る。お昼には少し早い時間だ。  そこかしこから美味しそうな匂いが漂ってくる。途端にお腹が鳴って、さすがに恥ずかしくなった。 「何が食べたい?」  そこはさすがに突っ込まずにロステは俺に聞いてきた。まあ、定食屋なんてそう、バラエティには飛んでないんだけど。俺はすかさず、肉!と答えてロステの苦笑を誘った。 「わかった。がっつりな感じの昼食ってことで探してみるよ。」  フィメル向きの割とこぎれいなところとか、職人向けとか、客層によって色々あるが、ロステの選んだところは正騎士がよく訪れるという、「森の子鹿亭」。  ボリュームがあって、しかもそこそこの値段で、美味しいというところだった。あとで気がついたのだが、そこは第一騎士団長が宴会を開いてくれた店だった。夜は居酒屋になるらしい。  中に入るとまだ昼には早いのか、あまり客はいなかった。若いフィメルが注文を聞きにくる。 「オススメは野うさぎのロースト。単品で鶏肉の煮込み。オススメはパンがつくよ。パンは一回お代わりは無料。」 「じゃあ、オススメ3つ。煮込みも一つお願い。」  ロステが注文する。どう聞いても多い。でも、店員は嬉しそうに頷いて奥に注文を通しに行った。 「あ、ローストは2つメルトのだから。煮込みも全部食べられたら食べていいよ?」  よし。ロステはいい奴だ。  すぐに注文の品がでんと置かれて美味しそうな湯気を立てていた。 「どうぞ。遠慮なく。」  ヨダレを垂らしそうな俺にロステはそういうとカトラリーを持った。  俺はパンを手にとってそれにローストを挟んで、かぶりついた。塩とハーブの味付けで、ジュワッと肉汁が広がる。俺はあっという間に食べてしまって、パンをまた手にとって挟んで食べるの繰り返しになった。パンもお代わりをして、煮込みのソースにつけて余すところなく食べきった。 「美味しかった。ありがとう、ロステ。」  俺は思いっきり笑顔でお礼を言った。 「ど、どうい、致しまして?」  ロステは真っ赤になるとどもるんだな。あがり症とかだったか?  帰りは満腹のお腹をさすりつつ、ゆっくりと寮に戻る。 「戻ったら鍛錬だな。約束だったよな?」  食い気味に言ったらロステの目が丸く見開かれた。 「メルトは本当に鍛錬が好きだな。」  感心したような声に俺は頷いた。 「強い騎士になるのが夢だからな。新年の行進に参加できるようになりたいんだ。」  ロステは驚いた顔で俺の方を見た。 「…なに?」 「い、いや。メルトがそんなに話すところって、あまり聞いたことがなかったから。」  なんだと?話す必要がない時に無駄話をするわけないだろうが。腹が減る。 「…そう?」 「いや、なんか嬉しいな~」  何故俺がよく話して上機嫌になるのかわからん。ロステは変わっているな。  宿舎に戻り、着替えて鍛錬場に向かった。軽く準備体操をして体をほぐす。  しばらくしてロステが来た。  ちゃんと練習着に着替えている。 「ロステ、体解したら、模擬戦しよう。」  木剣を手に取り縦に振るう。手に馴染むものを選んで、広めの場所に立つ。目を閉じて思い描くのは理想の剣。 「よし、メルト、いいぞ。」  閉じていた目を開ける。ロステは敵だ。叩き潰さなければいけない。そんな暗示をかける。  俺は剣を下げたまま、体に力を入れず、どんな状況にも対処できるようにする。  ロステは中段に構えて振りかぶって近づいて来た。  俺はそっと剣を当てて滑らせて勢いを殺す。そのまま体を脇によけてロステが進む勢いのままに進ませて後ろを取る。そのまま首筋に当て、一本。 「ロステ…」  弱いんじゃないかな?というのは飲み込んだ。  団長と比べたらいけないか。ましてや理想の剣筋となんて。せめてリンド先輩くらい…。まあ、贅沢なのかなあ? 「も、もう一回!」  それから何度か打ち合って、模擬戦形式ではすぐ終わってしまうので、演舞の型をなぞる方法に変えた。  しばらくそうしていたら、見物人が集まって来た。 「ロステーガンバレー!」 「一矢報いろー!」  外野がうるさくなって来た。  そろそろやめどきかなあと思いつつ、足元がお留守になっているロステの足を払う。そのまま服を持って体を落として、ロステは仰向けに地面に転がった。ぽかんとした顔をしている。 「…野営の時も思ったけど、体術、全然ダメ。」  それだけ言って手を叩いて埃を落とす。 「今日はありがとう。じゃ。」  手を振って、部屋に戻ろうと背を向ける。  後ろからはざわざわとした野次馬の声が聞こえた。 (なんか盛り上がってるなあ。ああいうところはメイルのいいとこで悪いところなんだよな。俺ついていけないし)  遠くからロステが俺を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだと思ってそのまま戻った。 「あ、メルトーロステと出かけたんでしょ。どうだった?」  なぜかミランが部屋にいた。ベッドに寝っ転がって、お菓子を食べていた。ビスケットだ。 「お菓子!」 「第一声がそれか!!あげるよ。もう。」  ビスケットをもらって早速口に放り込んだ。  美味しい。甘いものってどうしてこんなに美味しいんだろう。甘いと言っても、高級な砂糖は高すぎて手が届かないから、こう言ったビスケットは材料自体の甘さが出るように焼いているのだ。  あとは天然の果物とか、これからの季節だと焼き栗とかがいい。 「んー、ご飯は美味しかったけど、ロステは弱い。もっと強い奴とじゃないと鍛錬にならないというか…」  聞いているミランの顔がだんだんと笑いをこらえきれないという顔になってしまいには笑い出した。 「そうだね。まあロステは絶対、メルトには勝とうとしないだろうけど、メルトが稽古したいのはちゃんと自分を鍛えてくれる人なんだろうね。」  俺にロステは勝とうとしない?なんでだろう? 「まあ、正騎士になればいっぱい強い先輩方がいるからそれを楽しみにしたら?」  ひいひいと息を漏らしつつ、ミランはビスケットを半分くれて二人でお茶を飲みながら話をした。  俺はちゃんと話せるのに。とロステに心の中で毒を吐いた。  それからロステが、体術を頑張って訓練していると聞いた。  向上心があるのはいいことだと思った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ロステと周りのメイル達の会話 「ロステ、お前、メルトにコテンパンじゃないか。」 「う…」 「どうせ真剣な顔も可愛いとか考えて身が入らなかったとかだよな。メルト強い奴の方が絶対好きだぞ?」 「…う。」 「とりあえず体術鍛えろ。」 「ううううう」

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