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ラーン王国編ー見習い期間の終わりー 野営訓練 その後
俺はどうやら疲労で二日ほど寝ていたらしい。最後の方は記憶があやふやだった。きっと手だけが動いていたんだろうと思う。本当にまだまだだ。
それに比べて団長はすごい。あの飢餓の魔物を一人で討伐したなんて。うっすらとあの巨体は覚えている。恐怖にすくむ俺を助けてくれたのだ。
やはり第一騎士団に入りたい。それにはもっともっと鍛錬に励まなければ。
「ヤッホー、メルト!起きてる?」
俺はまだ医療棟に入院していた。間近で毒を吸い込んだ可能性があるので、様子見ということだった。俺には魔法が使えないので、ポーションを飲んでいた。
どうやら同室のミラン、エメリ、ポリカが見舞いに来てくれた。もう明日には部屋に戻れるんだけど。一緒にいた3班の連中は一日で戻れたそうだ。そんなとこも、俺は弱いんだなと感じる。
「…ん、もうほとんど問題ないんだけど、念のため、だって…」
みんなが一様にホッとした顔をする。心配してくれたんだ。なんだか、嬉しい。
「よかった。結局、前半組は訓練はおしまいだって。あの時点の勝率と、貢献度で成績つけてるみたい。」
なんだ、改めてじゃないのか。少し残念だ。後半組はどうするのだろう。飢餓の魔物が出たとなれば、浄化に時間がかかるはずだ。
「なんでも、後半の5班(チーム)は、反対側の王族の直轄領で野営訓練だってさ。ちょっと山になってるから厳しいとか嘆いてたよ。」
肩を竦めて、ポリカが言った。ポリカは5班で森の入口近くで討伐をしていたらしい。
「嘆いてるよ!なんで僕だけ、後半だったんだー!」
エメリが大げさに嘆いた。もう少しで出発らしい。
「まあ、頑張って?」
ミランが笑いながら言う。3人がいない部屋は広くて怖かったと言っていた。
「山かあ。いいなあ…俺も行きたかった…」
それを聞いたみんなは一斉にえええ!?悲鳴をあげた。
「もう、メルトってば、脳筋?あれだけ大変なことになってまだ訓練って…」
ダメなのか?
「そんな、キョトンとした顔で…ダメだ!可愛い!」
ミランが襲いかかってきた。その上にエメリとポリカも乗っかってくる。苦しい。潰れる。
「こら!何を騒いでるんだ!医療棟で騒ぐな!!」
治療師に怒られてしまった。でもおかげで早々に戻れることになった。
寮に戻ってきてホッとする。
下げたままだった、ペンダントを外して見つめた。
心がぐちゃぐちゃになりそうで、そっとまた奥にしまった。今度はきちんとした箱に入れて。
なぜ、このペンダントを見ると心がざわつくのだろう。
取り上げられてしまったものも多分そうだ。それらを見たらきっと涙が出る。
いつか、あの時ほんとは何があったか思い出せるんだろうか。
それとも、いつかそれすらも忘れてしまうのだろうか。
下降する気持ちを、顔を上げることで鼓舞し、夕方の鍛錬に出かける。いつものメニューをこなして、赤く染まった空を見上げた。それがすぐに暗くなっていって青と群青へと染まっていくコントラストにしばし見惚れた。最近、紺色と水色に目がいくのだ。
好きな色になっているのかもしれない。涼やかで綺麗な色だから。特に今は暑いからそう思えるのかもしれない。
第一騎士団長による慰労会が行われた。魔物の氾濫の討伐への団長の自腹の宴会だそうだ。
騎士団がよく利用する居酒屋を借り切って行われた。
俺は初めて宴会というものに出たからなんだかびっくりしてしまった。
お酒というのも初めて飲んだ。
エールはあまり好きじゃなかったが、ワインは美味しかった。
でも体が熱くなって、ふわふわして、なんだかおかしな気持ちになった。
「メルト、あんたはお酒、あんまり飲んじゃダメだよ?」
ミランが杯を取り上げた。
まだ飲む。お酒好き。
ねだるように見上げたら、ミランが俺の頭を抱きしめた。
「だめ!!帰るの!」
結局ミランに引きずられて寮に帰ったので、ご馳走はそんなに食べられなかった。
あとでこっそりポリカがお持ち帰りをしてくれてた。嬉しかった。
どうも俺はお酒には弱いらしい。飲みに行くときは気をつけろと言われた。
お酒、気に入ったのになあ。残念。
後半の野営訓練は何事もなく終わったらしい。
最終試験の組合せの発表は夏の終わり頃になるらしい。
「メルト!あ、明日の休日は、俺と飯に行って欲しいんだけど!お、おごるから!!」
食堂で夕飯を食べている時にロステにそう言われた。なんか必死な顔をしている。
「………奢りなら。そのあと鍛錬に付き合ってくれるか?」
そういうとぱあっとなんだかロステの顔が明るくなった。たまには対人訓練もいいだろう。奢りだし。
なんだかロステは固まってしまったけれど、大丈夫だろうか?
「はっ…夢みてた?俺?」
たまに、というかロステがバカだなと思うことが増えた。なぜだろう。
「あ、明日、11時ごろに裏門のところで!」
なぜ声が裏返っているんだ。
「わかった。」
俺は頷くとロステが離れて行った。足が地についていなかった。そしてなんだか囲まれて殴られている。
「いいの?ロステと出かけるなんて。鍛錬の邪魔になるんじゃないか?」
ミランが声をかけてくる。ミランはまだ、半分しか食べてない。
俺はもうそろそろなくなりそうで、もう少し頼めばよかったと後悔した。
「何そんなに落ち込んだ顔してるの。僕のあげるよ。少し多かったんだ。」
ミランが肉をくれた!肉!
「神がいる!!」
拝んでみた。
「ちょっとそういう時だけ持ち上げないでよ!メルトってば!」
周りで食べていたエメリやポリカも笑ってた。
そんなにおかしいか?と首を傾げてると、また可愛いと言われた。
俺のどこに可愛い要素があるんだ。わからん。
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