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龍の住処編ーヒューSIDEー アルデリア王国王都アルデ

 幽玄迷宮を出たあと、寝込んでた俺は復活した。  龍の威圧に耐えられなかったせいもある。  なんで、今回に限って睨んでくるのかな。  焦りを孕んだ、何かを促す目。 『お主はそれで良いのか?』  そう問われているような気がする。  ぽかりと空いたこの心の穴の原因を俺も知りたい。  だって、立ち直りかけてたはずなんだ。少なくともダンジョンへ出かけてアルデリアの王都に行こうという気持ちになっていたはずだった。  青の結晶は、手に入れている。  その後からダンジョンを出るまでがどうしても思い出せない。それが俺を不安にさせる。  龍の加護で状態異常にはならないはずだ。でも、思い出せない。あの採取場所からすぐダンジョンの入り口に飛ばされるとか、ありえない。でも、ありえないことが起きた。  思い出そうとして零れ落ちる、金と緑。  なぜだか、その色は俺の今一番大事な色だ。 「よし、悩んでいても仕方ない。とりあえず、届けに行かないといけないか。」  一人だと独り言を言う癖がつくのだろうか。まあ、引きこもっているのは人と会いたくないからで、それは自分のせいだから、そこは愚痴ってはいけない。  俺には愛してくれる家族も友人もいる。  ただ、恋人は幼馴染だった勇者が老衰で亡くなってからはいないのだ。  俺は結構好きになった相手にのめり込む性質のようで。  前世でも口にはしなかったけど、ずっと一人を思っていた。  この世界に生まれて来て再会できるとは思わなかったし、ましてや伴侶になるだなんてありえないことだらけだった。  俺のチートなスキルも、何もかも。  恵まれているのにどうして俺は満たされないのか。好きなことをずっと続けて、魔法も魔道具も、規格外と言われるほど突き詰めて。  なのになんで俺は700年も孤独なのだろう。  いや、龍がいたから全くの孤独ではなかったけれど。  龍は癒しポジションだから犬や猫と一緒だ。  さて、王都に飛びますか。  転移先は、アルデリアで活動してた頃の偽名、グレアムの名で起こした商会の店の地下にする。  “龍の爪”。俺の作る魔道具はハディー(地球風に言うと母親)に検閲を受けて、通ったものだけ、厳選した顧客に売っている。それでも噂になって高額で売れるのだからハディーの経営手腕はすごい。さすが領主の伴侶。クレム領はハディーがいなければ回らない。  地下室の扉を開けて、1階の店舗のバックヤードに出る。そうすると前の扉が開いた。 「ヒュー様!」  実家の侍従のセッテだ。ヒューマンでいう25歳くらいの外見で、水色の髪、紺の目だ。イケメンのメイル。この商会を実質的に切り盛りしている。実家と俺の連絡役もしている。 「旦那様に連絡をお願いいたします。何やら急ぎの用とか…」 「んー、わかった。今ちょっと急いでるから戻ってきたらね?」 「ヒュー様!」  俺はいつものローブを被らず、大人の姿で外に出た。このアルデリア王国は勇者の英雄伝説が根強い。  フードのついたローブ姿の大魔導士グレアムは姿があまり知られておらず、中央広場の銅像もフードを被った半分顔が隠れている姿だ。もちろんモデルは俺だ。  魔術師には憧れのようで、コスプレなのか、そこかしこにそういう風体のローブ姿が歩いている。  却ってシャレにならないので、ここにきた時は普通にシャツとズボンと上着だ。  髪は後ろでくくっておく。一応腰にショートソードを佩て、街を歩く。  一番栄えている街は王都アルデ。この街だ。世界中から人と品物が集まり、そして出ていく。  龍のもたらした平和は人々を富ませる。  戦争を繰り返す帝国は農地も枯れ果てて今国は荒れているという。  奪えばいいという考え方では国は富むことはない。  鍛治の工房の集まる職人街に着く。勇者パーティーで一緒だったボルドールの工房へとやってきた。 「すまない。ヒューが来たと伝えてくれないか?」  多分一番若い弟子と思われるドワーフが真っ赤な顔で裏に行った。  しばし待つと、応接室に案内された。お茶が出されて飲んで待っていると、バタバタと足音がして、勢いよく扉が開けられた。 「持って来たか!意外と早かったな!さすがヒューだな!」  ドタドタと足音を立ててボルドールが部屋の中に入ってくる。まあ、俺たちの仲だし、遠慮も何もない。  事情を知らない弟子の中では取次はしないと言われることもある。あとで、そういう弟子は放り出される。そういう奢ったものがボルドールは嫌いだからだ。 「幽玄迷宮は近いからね。これが頼まれたもの。」  アイテムボックスから採取したものを取り出す。  見事な大きな透き通った結晶ばかりが姿を現すとボルドールが感嘆の声を上げる。 「これはすごいな。こんな結晶見たことがない。よほど深く潜ったか?」  出されたお茶を飲みながら俺は首を傾げる。 「あれって42階なら結構転がってるはずだけど…」  42階といった途端ボルドールが変な声をあげた。 「42階なんざ、ソロで行く場所じゃない。パーティーだって帰ってこない階層だ。」 「えー、ボルドールが行けって行ったんじゃないか。俺はそこにあるのしか知らないからそこに行ったんだよ。違う階にあったなら教えてくれよ。」 「冒険者は情報を得るのも仕事じゃないのか?」  にやにやとしつつ結晶をよだれの垂れそうな顔で見ていた。 「おいおい。まあいいか、俺はもう帰るぞ。」 「実はミハーラに連絡しちまってなあ…」  そうボルドールがいった途端、バンとまた扉が開いた。扉壊れるぞ。 「ヒュー!ギルドに顔出せってあれほどいったの忘れたか?ギルド通さないで仕事を請け負うとは…冒険者ギルドを舐めているのかな?」  ギロリと怖い顔で俺を睨むハイエルフのミハーラ。長い髪にやや長い耳。美形のすらっとした長身のメイル。 「いや、そういうわけじゃないけど…」 「このあと、食事に付き合いなさい。王都には泊まるところがいくらでもあるだろう?」 「あー、うん。どっか宿とる。とれなかったらすぐ帰る。」  なんとなく、勇者の思い出の残る屋敷には、帰りたくなかった。 「わかった。久しぶりに会ったんだ。せめてそのくらいは付き合え。」  そう言われたら断れない。個室のあるレストランで食事をした。  勇者時代の話はなしで、最近の王都の状況とか、帝国の動向とか。小国群とそろそろ戦争になりそうだとか。あと最近の魔道具の話とか。アルデリアの今の王太子が優秀だとか。  今の王太子って誰だっけ。あ、そうだった。王太子なのに騎竜騎士団に入隊し、今は団長だ。  騎竜が好きなら問題はないだろうが、人間は心変わりをするから気をつけないとな。  勇者召喚を二度としないように。 「それで?君の新しい伴侶はどんな子かな?」  は? 「そうだ。つれて来ないなんて水臭いぞ?」  待て待て待て。  俺の伴侶? 「何言ってるんだ。俺はまだ独り身だぞ?だいたい引きこもってて出会いはない。」  そういうと二人は顔を見合わせてもう一度こっちを見た。 「本当か?娼館とかにもか?」  眉を寄せて疑わしそうにこちらを見る二人に思わず俺は顔を引いた。 「俺は愛のないエッチはしないの。」  その時は何も言わないままで、二人とは楽しく飲んで別れた。  その夜は、王都の宿に泊まって、夢を、見た。  朝起きた時には忘れている、極上の夢を。

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