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龍の住処編ーヒューSIDEー 極上の夢 ※
『ヒュー』
甘く鼻にかかる声が俺を呼ぶ。起きている時は絶対に思い出せない、その声。
『ヒュー』
甘く掠れて俺を求めて呼ぶ声も。
『ヒュー』
やらかした後に俺を責めるように少し低いその声も。
『ヒュー』
期待に満ちた弾んだ声で剣の鍛錬をねだるその声も。
どうして起きている時は思い出せないのに、今はこんなに鮮明なのか。
ああ、これは夢なのだと俺の心の一部が思う。起きても覚えていられればとそう願う。
「メルト」
そっと大事に大事に抱きしめる。俺の大事な伴侶。
「ヒュー」
嬉しそうに俺の背に手を回してくれるメルトが愛しい。
口付けすれば恥ずかしそうにしながらも口を開いてそっと舌を絡めてくる。
俺にキスを教えられてからはキスが好きになったらしい。
メルトは気持ちいいことが好きだ。どうも、俺のアレが一番好きみたいな気もするけど、まあ、気持ちよくしてくれるものだからと解釈しておこう。
だから俺より先に気持ちいいことをしてくれた人がいればそっちを好きになったかもしれないと危惧した。
ぐずぐずに快感に溺れさせて俺だけを見てくれればいいと何度も思った。メルトは綺麗で可愛いから絶対にモテる。
離れれば不安しかない。
俺よりももっと高スペックなメイルに陥落されたらどうしようとか、そんな不安が押し寄せる。
肌を合わせて何度も言葉を交わして確認して、やっと安心する。
だけど、今は……。
「あ…ヒュー…もう…」
俺の昂りで奥を突くと艶めいた肢体が仰け反って喘ぐ。その姿が俺を煽る。甘い声も体温も。
「うん。いいよ。イって?」
奥を思いっきり突き上げるとメルトが達する。中で締め付けられて俺も達した。
「愛してる。メルト…」
ああ。メルトに本当に届けばいいのに。
愛してるよ、メルト。
「…!…」
目が覚めた。
ここは王都の宿だ。
青の結晶を届けにきて、飲んでここに泊まった。
そうだ。そのはず、だ。
俺は両手を見た。
この手に残る温もりは、誰のなんだ。
ぎゅっと手を握る。そのまま顔に当てて、俺は嗚咽を漏らした。
思い出せない、その金と緑に。
宿を出て、今度はミハーラのいる冒険者ギルドに向かった。
「すみません、ミハーラいる?」
受付が目を丸くしていた。まあ、普通は統括なんかに話する冒険者はいない。
不審げにしながらも取り次いでくれて、俺は統括の部屋に案内された。
「ヤッホー、元気?」
「なんでそんなに元気なんだ。」
頭を抱えているミハーラに、解毒の魔法をかけた。
「俺には加護があるから、状態異常にはならないんだ。」
スッキリした顔になったミハーラは眉を寄せて背を正した。
「礼を一応言っておこう。で、やっと冒険者活動する気になったのか?」
ミハーラは仕事モードになって聞いてきた。
「いや、少し帝国の動きが気になって。龍の住処から近いだろう?」
「ああ、そういうことか。帝国がアルデリアに仕掛けてくることは多分ないだろうが、隣国の北方小国同盟国に、しかけるんじゃないかと思われる動きが出てきた。予想では3~4年以内だな。帝国は精霊の加護を失っている。土地は痩せてみのりが少なく、また農民がいない。度重なる兵役で農業の働き手を失っている。」
ふうと一回ミハーラは息をついた。
「搾取による搾取で、平民は各国に逃げてきている。冒険者ギルドの問題はこの亡命してくる帝国の難民の扱いだな。冒険者登録は誰でもできる。できるからこそ、こう言ったとき、クエストのレベルに満たない冒険者が命を落とす。国境近くの支部では初級冒険者の死亡率が高くなっているんだ。」
あの国はいつになったら戦争をしない選択肢を取ることができるのか。
「帝国の帝王だっけ。変わっても変わらないのか?その戦争好き。あの国は建国からずっとだよな」
「エルフ領もあの国と近いからな。何度も迷惑を被っている。なんとかしたいが…」
まあ、そうそう話し合いでは国策が変わることはありえないんだよな。特にあの国に冒険者ギルドはないからな。
「まあね。本気であの国潰すつもりがないとね。でも先に犠牲になるのは罪のない民兵なのがまた腹たつよ。ちょっと警戒はしておく。じゃあね。」
俺はさっと立ち上がって出て行こうとした。
「依頼受けないと、今度は使えるようにしないからな?」
俺はギクリとして振り返る。
「そこをなんとか?」
「規則だからな。」
ひらひらとミハーラは手を振り、俺を追い払う仕草をすると、自分の仕事に戻るように顔を伏せて書類を見始めた。俺はそれを見て部屋を後にした。
冒険者のギルドカードは依頼を受けないと失効してしまう。俺は何度も繰り返しているので、またお金を払えばいいと思っていたが依頼を受けないといけないようだ。
まあ、必要になった時でいいか。
俺はその足で商会に戻った。
セッテに見つからないよう転移で地下室に向かう。そこから転移陣に乗って龍の住処に戻った。
朝の夢の中身が知りたくて胸がモヤモヤした。
「あ、そういえば青の結晶の報酬もらってない。」
今度請求してやろうとそう思ってテントに入った。
龍は出かけていたようだった。
浄化を唱えて体の埃を取ってベッドに寝転がる。この寝室に甘いオレンジの香りが残っていた。
俺はシャンプーの匂いかと思ったがそうじゃない。
誰かの残り香だった。
でも、誰もここには入れていない。そもそも龍の住処にくる人物なんて俺以外いない。
『恋人を紹介してくれ。』
二人に言われたということは、わかる状態だったということだ。
恋人なんてできていないのに。なんでだろうか?
(わかっているくせに。体に残る魔力の持ち主のことなのに)
心の奥で自分に届かない声が聞こえる。
俺は魔道具を作りたくなって、作業することにした。
通信機を作ろう。
イヤーカフで、片方は翠、片方は水色の魔石にした。場所感知と通信機能、念話でだ。
片方が魔力を通すと片方に場所がわかるように。
危険が相手に迫った時、駆けつけることができるように。
なぜだかわからないけれど、作らないといけないとそう、思った。
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