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龍の住処編ーヒューSIDEー ルーシ王国マジル

 ルーシ王国の最南端の街、マジルのテイマーギルドは門から大通りを二本、西に外れた通りの裏通り沿いにひっそりとあった。テイマーは基本的に魔物を従える職業だ。契約を結び魔物と連携して戦ったり、使役して農業など生産に関わる仕事をしたりもする。  こじんまりとした白い3階建の建物で、茶色のタイルが貼ってある外壁に正面に観音扉があって、そこは解放されているようだ。冒険者ギルドよりはむさ苦しくはないような感じはする。  中に入ると受付のカウンターがあって、若い職員が座って書類仕事をしていた。  中の構造は冒険者ギルドとあまり変わらない。受付カウンターに、依頼票の貼ってあるボード。買取カウンターに、待合は壁際に長椅子が置いてあって基本は広い空間だった。ピーク時にはテイマーで埋まるのだろう。酒場がないのが冒険者ギルドと違うところのようだ。 「すみません。登録をお願いしたいんですが…」  受付に申し出ると書類から顔を上げた職員が笑顔で俺を見た。 「こんにちは。こちらの書類に名前と年齢、出身地、テイムしている従魔の種類と名前を書ければ書いて欲しい。書けないなら代筆をするけど…」 「一応かける。下手だけど…」 『名前は勘弁して欲しいぞ。縛られるのは困る』 (あーそうだった。じゃあ、種類だけ) 【ヒサキ、15、アロナ(デッザとルーシ王国の村との間にあるアルデリアの村の名前)、ホワイトバシリスク】 「これでいい?」  書類を渡すと受付が確認してカードを渡してきた。魔道具のステータスカードではないギルド証だ。  名前とランク、従魔の種類が書いてある。ランクは登録したばかりだから最低ランクのG。見習いってところだ。色々諸注意を受けて、最後に従魔用のプレートを渡された。リボンや鎖で従魔につけるらしい。街中だけでいいそうなのでミスリルの鎖で首にかけた。 『なんとなく、ムズムズする。』 (外を歩いてる時だけだから、我慢して欲しいな)  ギルドを出て門へ戻ると仮の身分証を返してギルド証を見せた。  問題なく通過儀礼は終わったので、ホッとしつつ、宿を探しに出る。一応ギルドの受付にオススメの宿は聞いてきたが、田舎者の少年が泊まるクラスは風呂がないだろうなといささかがっかりする。  ただ従魔がいてもOKな宿を教えてもらったから素直にそこにするしかない。  “白狼亭”という名前は高貴な感じのする宿だが、リーズナブルな宿で、白い外装に木の宿の看板は狼の絵と宿を表す記号が入っていた。中に入ると落ち着いた内装で古い宿のようだが綺麗で清潔感があった。  ややふくよかな初老のフィメルが受け付けてくれて銀貨5枚で朝食がつく。昼と夕飯は有料だ。  この世界のお金は硬貨が基本だ。ただ鋳造した国によって価値は変わる。ドワーフ領の硬貨が一番優れていて、次にアルデリア、商業国連邦、エルフ領(基本的に作っておらず他国のを利用する。アルデリア製が主)、北方小国同盟群ときて他の国々が続き、最後に帝国だ。金が足らないと水増しして生産するから質が悪い。だから普通はアルデリア硬貨を皆使う。両替屋で取り替えるのだ。  あとは魔道具のギルドカードを持っている場合はそれに入金できて決済できる。冒険者・商業・生産業ギルドのギルドカード、アルデリアのステータスカードなどがそれだ。現金化するときは両替もできる。  最小通貨は小銅貨で日本でいう1円。それが10枚で銅貨1枚。1銅貨が10枚で大銅貨1枚。つまり大銅貨1枚は百円ということになる。大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で大銀貨1枚、大銀貨10枚で金貨1枚。平民が普通に見る硬貨はここまで。平民は大抵大銀貨までしか使わないし持ち歩かない。  それ以上は貴族や裕福な階級の商取引や買物、家や店舗などの買物、高額の魔道具などや高ランクの冒険者への依頼金などでしかお目にかかれない。もっとも冒険者はギルドカードに入金するから手元に必要な小銭しか現金化はしない。盗まれる危険性が高いからギルド預かりにしているものも多い。  金貨10枚で大金貨1枚、大金貨10枚で白金貨一枚。白金貨は1000万円だ。ただ物価などが違うから一概に換算はできない。  ただ実際に取引に使うのは金貨までだ。大金貨なんて出されても困る店は多い。ギルドでも金貨200枚とかくれる。まあ、現金では普通もらわないけどね。  通された部屋はベッド一個とサイドチェストのみ。小型の従魔の餌箱と籐カゴにタオルが置いてあった。ねぐらにしろというのかなあ。 (これで寝る?) 『ぐぬぬぬ。仕方あるまい。』  ぴょんと飛び出てカゴに収まった。ジャストサイズだった。  基本龍は空気中の魔素を吸収して力としているから食事はいらないのだ。でも味はわかるのでたまに俺の作ったおやつを強請られる。 (クッキーでいいかな?水も置いておくよ)  アイテムボックスに作り置きしたおやつを出した。  気のせいか作り置きの料理とスイーツが減っていたんだよな。ダンジョンから戻ったら。食べた覚えがないんだけど。  本当に忘れてる何かがあるのかもしれない。  思い出せないと後悔する、そんな記憶が。 (今は帝国の情報だ。そっちに集中しないと。)  あとで、ミハーラにも情報を売ろう。そうしよう。俺は夕方まで部屋で休み、夕飯を宿の食堂で食べることにした。  龍は留守番すると言ってカゴの中で寝ていた。意外と気に入ってるんじゃないか。 「こんばんはー」  食堂に入って声をかけると、受付にいたフィメルが給仕をしていた。 「適当に空いてるとこ座っていいよ?定食はボアのロースト。パンとスープ付きで大銅貨8枚。他は煮込みが大銅貨5枚。パンはお代わりが銅貨5枚。」 「じゃあ、ボアで。はい。」  大銅貨9枚を渡した。それを見てちょっと複雑な顔をしたフィメルだけど、すぐ笑顔になった。 「子供が気を使うんじゃないよ?まあ、でももらっておく。ありがとね。」  あれ? チップって普通じゃなかったっけ? ああ、そんなに子供に見えるのかな? うーん、茶色がいけないのか。  去っていくフィメルの後ろ姿を見送りながら、集音の魔法で周囲の会話を拾っていく。 『いい従魔と契約できないかなあ。』 『この辺だと、そんなにレベル高い魔物自体いないじゃないか。野盗の方が怖いぞ。』 『なあ、今夜どうだ?』 『そうだなあ。奢ってくれれば考えるよ。』 『今日はいい稼ぎだったな!』 『運が良かったんだよ。そうそうないだろ。』 『まあまあ、稼げたんだから貯金したら?装備新調しないと…』 『最近帝国に近い村が荒れていて…』 『兵崩れの野盗がいるようだ…』 『この間も行商人が襲われ…』 「お待たせ。」  目の前に湯気の立つ美味しそうなボアのローストが置かれた。パンは黒いパンだったが、スープは野菜を煮込んだスープのようで、これも美味しそうだった。 「ありがとう。いただきます。」  最初にスープを飲む。塩とハーブの味付けだが、野菜の甘みが出ていて美味しい。塩控えめなのがいい。  ボアのローストは岩塩で味付けしてあって肉自体の味がよく出ていた。臭みも何もなかった。脂も甘く感じて美味しい宿に泊まれて良かったと思った。  情報も、求めていたものが少ないけど、あった。  今後はあちこちで食事をして、情報を集めないとな。ただこの年齢だと酒場はまずいんだよな。  明日はクエストを受けて周辺の様子を探るかな。  俺はすっかりきれいに平らげた器を前にごちそうさまと言って席を立ち、部屋に戻った。

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