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龍の住処編ーヒューSIDEー 戦争の足音

『クエストとやらに行くのか?』 (うん。郊外のクエストで周辺の様子を見ようかと思って)  朝食を食べてローブを羽織って宿を出た。一週間分の宿泊費を前払いしているので、荷物は置いたままにできる。カモフラージュに荷物を置き、腰にショートソードと短剣を挿して今通りを歩いている。  宿からテイマーギルドは歩いて5分もしない距離にあった。  テイマーギルドについてみると、昨日とは打って変わって賑わっていた。様々な従魔を連れたテイマーがクエストを選んでカウンターへ持っていっている。パーティーを組んでいるのがほとんどのようで、俺のようなソロはあまりいないようだった。  テンプレの絡まれるイベントはなく、俺はすんなりとクエストを選ぶことができて受付の列に並んだ。冒険者でもお馴染みの薬草採取だ。  街の外には森がある。魔の森ほどではないが、この世界の森は魔物が出る。魔物はテイマーの力量によって従えられる魔物に差が出る。もちろん全ての魔物がテイムされるわけではない。  テイムの方法は基本弱らせて従えるか、向こうから擦り寄ってくるか、だ。もちろん俺はテイムしているわけではないからそういうことはない。  お願いしてついてきてもらっているだけのことだ。彼が神獣だからでずうっと高位の存在だ。本来は西大陸と東大陸の間の聖域の精霊島にいるべき存在なのだ。彼にとっては俺たちハイヒューマンの寿命すらあっという間のことなのかもしれない。  森に入って、クエストである薬草を探す。回復ポーションに使われる基本的な薬草だ。薬草は魔素の高い場所にしか生息せず、人の手で育てるのは難しい。なのでこういった採取依頼を薬師ギルドは冒険者ギルドやテイマーギルド、狩人ギルドなど、魔物への対処が可能な人材を擁するギルドに発注するのだ。  俺は森の中を探索の魔法で一気に調べた。そうすると俺のマップのスキルに場所が浮かび上がる。幸い今立っている場所からそう遠くないところにある。まずは採取をして、辺りの様子を探しているフリをしつつ伺おうかと思う。常にマップを展開しつつ不審な気配がないか探っていく。  集音の魔法も同時に使っている。冒険者やテイマー、狩人の声や息遣い、獣や魔物の活動音などが聞こえる。一日目からそう成果はないと思ってはいる。そのうち野党が多く出るというところに行ってみようか。  俺は一日薬草を探しつつ(襲ってきた魔物は全て仕留めてアイテムボックスにしまった)その日を終えた。  薬草採取はA評価をもらい、本来の報酬に少し色がついて銀貨4枚。本来は3枚だった。  俺の泊まっている宿は銀貨5枚だから、本来はもっと宿のクラスを下げないといけないか、もう少し報酬の高い依頼を受けるか、複数こなすかになる。まあ、俺はお金がないわけじゃないから構わないんだけど。 (ん?)  俺のマップに敵意のあるものが引っかかった。複数だ。マーキングをして薬草を探すふりをして近くを通る。  野盗なら一人で歩いている駆け出しのテイマーなど格好の獲物だろうに。  俺の他に冒険者などはおらず、魔物もいない。  なのに一層息を潜め、俺に見つからないようにしている。 (これは当たりか?)  俺は至近距離をきょろきょろとしつつ、下を見て探すふりを続けた。 (龍、すまないけど、上に飛んで相手を見てきてくれ。みつからないようにね?) 『私を誰だと思っているんだ。』  場所と人数のイメージを伝えるとふわりと浮かび上がって、不審者の上空を飛ぶ。 『確かに野盗にしては綺麗で所作もそこそこ訓練されているような感じだな。』  龍はイメージを伝えてきて俺は頷いた。 (よし、マーキングした。これで追跡できる。戻って、他を当たろう)  龍は戻ってくると、俺のフードの中に潜り込み、肩にしがみつく。俺はしゃがみこんで、草をガサガサとかき分けて声をわざと出した。 「んー、これ違うなあ…どこにあるんだろう…薬草って言っても雑草とあんま変わらないし…」  そう呟きながらその場をゆっくりと離れた。殺気を洩らしたものはいなかった。  これは確実に帝国の間者が入り込んでると見ていいだろう。  俺はそんなことを繰り返し、この日、2団体を見つけてマーキングした。  そんな偵察を一週間繰り返し、マジルを出ることにした。国境沿いの町や村を点々と移動し、転移スポットの確保と間者の有無などを調べていった。  各村や街には一週間ほど滞在し、テイムできる魔物を探して歩いてると聞かれれば答えた。  Gランクなりたての、見習いテイマーが頑張っていると思われたようだ。  国境沿いを回りきり、マーキングを改めて確認すると、交代で帝国方面に向かって、また帝国方面からやってくる。  人数は1個小隊、5人から10人ほど。野盗に扮しているがそのものに近い行動を取っていたものもいた。  それからルーシ王国にも動きが出てきた。国境沿いの哨戒を強め、見回る人数が増えた。  隣国の使者がいったりきたりもしていて、同盟会議は以前よりも活発に開かれているようだった。  俺は1ヶ月に一週間ほど、国境の町を回ることを繰り返した。そして2年ほどは水面下で動いているようだった。  そうして、3年ほど経った頃、同盟を組んだ近隣の国家の兵が演習と称して行ったり来たりを繰り返すようになった。  その時俺はまたマジルにいて、兵の出入りを観察していた。 「ヒサキ、兵隊が珍しいのかい?」  仲良くなった、白狼亭の副主人だ。要するに日本風に言うとおかみさん。ヤンカと言う名前だ。  宿の食堂の窓から通りを眺めていたら声をかけられた。 「なんか最近違う国の武装してる人たちがいっぱいいて怖いなって思って…」  ちょっと上目遣いに見るのがコツだ。不安げに肩を震わせてみせるのも忘れない。 『よく言うわ。』 (うるさい) 「大丈夫だよ。あの人たちは味方さ。いざという時は僕たちを守ってくれるのさ。ほら、あの団体はラーン王国さ。あの国は騎士って呼ばれていてマナーもいい。武力を売りにしてるから強いよ。」  そう言われて通りを見る。白い鎧の騎兵に先導されて規律正しく歩いていく一団がいる。  あの国は金髪碧眼が多い国なのか。白い肌で、薄い色味の髪、しかし、よく鍛えられている、騎士達。  その一団が俺の前を通り過ぎた。  何か、懐かしい、慕わしいものを感じた。 (なんだ?) 「…メルトは…」  風に乗って声が聞こえた。  どきりと胸が脈打つ。  今のはなんだ? 「?どうしたんだい?ヒサキ?」  俺は駆け出した。その一団を追おうと思った。だが、不意に馬車が俺とその一団を割るようにして通りがかった。その馬車は貴族の馬車で頭を下げなければならなかった。  頭を上げたらもういなかった。探索するにもイメージが漠然としすぎていてマップを浮かべることもできなかった。きっと誰かに聞いたら所在はわかっただろうけど、それも思い浮かばなかった。  そして俺は、騎士団の去っていったであろう方向を見ながら、その場でしばらくの間呆然と立ち尽くした。  そしてその数ヶ月後、戦端は開かれた。帝国とルーシ王国、北方同盟軍の間で。 ************************************************************************************************ いったんヒュー視点は終わり、次話からメルト視点に戻ります。

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