56 / 71

ラーン王国編ー正騎士へー 叙任式

 冬季休暇が終わり、宿舎に戻った。家にいる間は軽くしか鍛錬できなかったが、いつものメニューを軽く一通りこなした。剣を一心に振るうと何もかもが頭から飛ぶ。  剣はいい。  心が清められる。  そうして、休暇が明けるまで一日中自主鍛錬に励んだ。  休暇が開け、最終的な調整のような鍛錬に入った。座学のまとめ、今までの実地訓練についてのレポートなど。  俺は少し筋力がついて、重い剣を振ることができるようになった。これで攻撃力が増すなと、つい笑顔が出る。大剣を振って、斬撃が出せれば、俺はもっと強くなれる。 「メルト剣見て笑ってるよ……」 「剣フェチ?」  何をいってるんだお前たちは。  春を迎える頃、正騎士への昇格する通達があった。正式な叙任は総団長が一人一人に言い渡す叙任式が行われる。今回は全員が正騎士に上がれることとなった。今期は優秀らしい。  配属は叙任の時に通達されるから、まだわからない。  そして綺麗に晴れた日、叙任式が執り行われた。見習いが整列する中、一段高い場所から、総団長が一人一人名前を呼ぶ。呼ばれたものは近くに行って跪いて叙任を受ける。 「次、メルト」 「はい!」 「貴君を第一騎士団所属に叙す」 「ありがとうございます。」  第一騎士団の団員の証である記章を受け取り、俺は第一騎士団の正騎士になった。念願の第一騎士団の団員だ。  正騎士になると期ごとの、集合して整列した絵姿が城の通路に飾られる。正装で、全員が並んで、肖像画を描いてもらう。絵師は王のお抱えの絵師だ。その絵は年の初めから1ヶ月ほど公開される。自分の子の絵姿を見に家族が訪れるのも少なくない。  その時はまだ、自分の鎧など持たないので、サイズが合う鎧を貸してもらう。それを何日かかけて絵師に描いてもらい、完成には2ヶ月ほどかかる。  それから配属された団へ合流し、本格的に騎士としての活動が始まるのだ。宿舎は正騎士用の宿舎に移り、二人部屋になった。同室はミランで、ホッとした。  第一騎士団の団服は白を基調とした団服だった。汚れが目立ちそうで怖い。それに剣を佩いて4人1組で見回りをする。その団服はトレードマークでそれを着ていれば、騎士だとわかる。  俺の班はリンド先輩、リスク、俺、ポリカだった。2組で別れる時はリンド先輩とリスク、俺とポリカだった。本当は先輩と新人二人ずつなのだが、人数の都合上そうなったらしい。  リンド先輩は仕事はできる人だった。人当たりもいいし、決断力もある。面倒見も良くて、いろいろ教えてくれる。でも、どうも、娼館に通っているという事実がフィメルを遠ざけていた。なんとなく残念な人だった。  街中で一番多い事件はスリやひったくり、迷子などだ。リスクはそういったことに敏感でよくスリを捕まえる。俺は乱闘騒ぎを収める時が一番得意だった。  力任せに引き離せばいい。 「メルト、あんまり無茶するなよ?逆ギレされたら怖いからな?」  リンド先輩はきちんと諌めてくれた。俺が一発顔にもらったからだった。  目元が少し腫れたが冷やしていれば治るから気にしてなかった。 「メルトはフィメルなんだから、顔は死守しなさいね。」  ポリカにも怒られた。きっとミランにも行くだろうな。ミランはきっと怒るだろうな。  一発いれられたのは俺が油断してたからだ。あんなのは軽く躱せなくちゃいけない。  もっと鍛錬しないと。  もっと食べて、いっぱい寝て、鍛えて。  そうして一年目はあっという間に過ぎて。  新年の叙任式は第一だった。その最後尾に俺達新米の正騎士が並んで行進した。ちゃんと胸を張って馬を歩かせることができた。  家族も俺の晴れ姿を見に来てくれた。ずっとずっと憧れた場所に俺はいた。  嬉しくて嬉しくて。  嬉しくてどうしようもないはずなのに。    (---も、見てくれたら嬉しかったのに……)  でも少しだけ、心の片隅が、痛んだ気がした。  そして、2年も経つ頃、身長は195センチになって、筋肉もだいぶついて、大剣を片手で振り回せるようになった。そんな20歳の俺は結婚適齢期だなんだと騒いでいるフィメルの中で浮いた存在になってしまったのだった。

ともだちにシェアしよう!