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極道とウサギの甘いその後3−1

 朝と呼ぶには少し遅い時間で、窓から差し込む日差しは大分明るい。  竜次郎と向かい合って座るダイニングテーブルには、ほかほかの大盛り白米と、豆腐とわかめの味噌汁。豚の生姜焼きには千切りのキャベツを添えて。付け合わせにはポテトサラダを作った。  少しへビーではあるが、昼食や夕食は必ずしも竜次郎と一緒に摂れるわけではないので、一日の内の朝食をメインの食事にしている。  何を作っても「美味い」と言ってたくさん食べてくれる竜次郎だが、今日は何となく口数が少ないような気がする。  体調不良……は昨夜も大変お元気な様子だったので違う気がするし、悩み事だろうか。 「竜次郎、何かあったの?」  迷ったが、気になるので聞いてみることにした。  竜次郎は普通に振舞っているつもりだったのだろう。驚いたように目を瞠り、それから眉を下げて苦笑した。 「お前は鋭いな」  微かな違和感ではあった。隠そうとしていたのならば、気付かないふりをした方がよかっただろうか。  竜次郎はしばらく言うべきかどうするか考えていたようだが、隠す方が余計な心配をさせると思ったのか、最近シマ内の若者に出どころ不明のドラッグが出回っているのが気になっていると教えてくれた。 「覚せい剤に混ぜもんをしたよくある合成麻薬だが、素人が売るほど手に入れられるとも思えねえから、どこかの組がバックについてる事は間違いねえ」 「バイヤーが、何も知らずに松平組のシマで売っちゃってる可能性は?」 「ないとは言えねえが……どっちにしろ現行犯でとっ捕まえてやめさせてえと思ってる」  縄張りというのは、大事なものなのだろう。竜次郎は続けた。 「うちは女とドラッグで商売はしねえからな。いい大人が自分の判断で使うのは好きにすりゃいいが、若い奴騙して金巻き上げるのは許せねえだろ」  それには湊も大いに賛成である。  人の心を蝕むドラッグは本当に良くないと思う。  竜次郎のそういう義侠心は、とても好ましい。 「中尾さんは何か知ってるかな」  中尾と松平組のシマは隣接している。松平組のシマ近くに中尾の率いる半グレ集団『オルカ』が進出している、というのが正しい表現ではあるが。  同じ被害に遭っていたりはしないのだろうかと思ったが、竜次郎は苦虫を噛み潰したような表情になった。 「あいつにも一応探りを入れたが、『知らね。ざまあ』で終わった。知っていることもあるんだろうが、タダでは情報をよこすつもりはないだろう」  松平組としてはへりくだってまで情報を得るのはできないということなのだろう。 「八重子ちゃんが頼めば……」 「あいつが中尾に頼むよりあいつ自身に聞いた方が早いだろ。つっても、黒神会に助けを求めるのもなしだからな」  色々面子や立場というものがあるようだ。  松平組で完結したいと言われると、湊も無理に八重崎を発動させるわけにはいかなくなる。 「……一応、目星のついてる奴と場所はあるんだよ」 「え……じゃあ、そこに行けばいいんじゃないの?」 「シマ内だからな。親父の代からの知り合いで、『うちは知らない』って言われたもんを強制的に調べることもできなくてな」 「そっか……難しいね……」    困っている竜次郎のために何か力になれればいいのに。 「そうだ!竜次郎、俺が囮捜査しようか」  「却下だ」  バイヤーが湊にドラッグを売れば、それは動かぬ証拠になるはずだと思ったのに、竜次郎はかぶせ気味に否定した。 「……ちょっとくらい考えてくれてもいいのに」 「湊お前な。お前がそんなところに行ったら身包み剥がれてヤク漬けにされて人身売買かなんかされるのがオチだろ。言わねえとお前がいらない心配をするかと思ったから話したが、危ないから関わるんじゃねえぞ」  近いうちに解決予定だからな!心配無用!と念を押して、竜次郎は食事を再開した。  心配してくれる気持ちは嬉しいが、自分だから役に立てることもあるのではと思う。  本当にそんなに危険なのかどうか、八重崎に聞いてみてはどうだろうか。  長崎の一件で松平組が襲撃を受けた時は、八重崎はきちんと湊を止めた。  湊自身が助言を受けるためならば、八重崎に連絡をするのも問題ないだろう。  食事を終えると竜次郎は事務所に出かけて行き、片付けのために家に残った湊は、一人になるなりスマートフォンを取り出した。

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