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極道とウサギの甘いその後3−2

『囮捜査……面白そう。一緒に行く』  説明を終えると、止めるどころか、新しい商業施設でも見に行くような気軽さで、八重崎は湊の話に乗ってきた。 「って、八重崎さんも一緒にいくんですか!?」  思わず突っ込むと、電話の向こうで静かに頷いた気配がする。 『行く……。求めてこない夫に絶望した人妻・みなと桜子が若い男と薬に溺れていく様を激写する役で……』  謎の設定に少し気が遠くなった。 「あの……その人妻は俺の設定……?……なんでしょうか……」  どこかで見たような筋書ではあるが、ベタだ。  ちなみに竜次郎には求めるまでもなく昨日もたっぷりかわいがってもらった。  職場で『つやつやしてる』などと揶揄される日々を過ごす今、その境遇を演じきれそうもない。 『湊は顔が割れてる可能性があるから……』 「あ……変装……ですか。なるほ……………………いや、女性キャラの必要ありますか?」  八重崎は普段から美少女に見紛う容姿なので『八重子』でも問題はないだろうが、湊は女性に間違えられるほど華奢ではない。   『現代には……トランスジェンダーという便利な言葉がある……女性に見えなくても何も言われない……』  それはフォロー……なのだろうか。  便利という捉え方も何か違うような気がするが、八重崎なので仕方があるまい。  それにしても、人妻というのは……。  その単語にはあまりいい記憶がないな、という湊の思考を読んだかのような発言が、端末の向こうから聞こえてきた。 『今こそ……未亡人賞受賞の腕前を活かすとき……』 「それは……」  言葉を失う。  『SILENT BLUE』の姉妹店、横浜元町にある『SHAKE THE FAKE』で、過去に女装の日というのをやったことがあった。  企画した店長の海河は、昭和のゲイバー的なものを期待していたようだが、残念なことに全員ぱっと見美少女のクオリティになってしまい、「いいけど……そうじゃなくて……」と肩を落としていた。  湊もヘルプとしてその日シフトに入っていたのだが、ウィッグを付けた鏡の中の自分が、母にあまりにも似ていて、まったく笑えなかった。  演じていたならともかく、うまく切り替えられずトーンダウンした接客になってしまっていた、というのに、それが未亡人ぽくてよかったという客が多く、特別賞をいただいてしまったのだ。  仕事なので女性の装いをしていたことに対して羞恥などはないが、キャストとしての未熟さを思い知った苦い記憶である。 『服はこちらで用意するから……。決行はいつにする……?』  湊の複雑な心境など汲むはずもなく、八重崎はもうすっかりやる気だ。  自分から相談したことではあるし、腹を括ることにする。  八重崎がこれほどまでに乗り気なのだから、危険自体は少ないということなのだろう。 『ヤク漬けにされて競売にかけられてる湊を……札束とともに迎えにくるガチ五郎も……ちょっといい……』  ……たぶん。恐らく。

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