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極道とウサギの甘いその後3−3

 翌日がシフトの入っていない日だったので、夜の街に二人で繰り出すことを決めた。  他のスタッフの都合もあるので不定期だが、最近は週に四日ほどしか『SILENT BLUE』には出勤していない。  竜次郎に「今夜はちょっと八重崎さんとでかけてくるね」と告げると、不本意そうではあったが、「気をつけろよ」と承諾してくれた。  竜次郎は、湊の行動を制限するのをちょっと神経質なくらいに嫌う。  湊としては、竜次郎がかまってくれる時間をきちんと作ってくれるならば、絶対に家から出るなと鎖で繋がれたりしても、特に不満に思ったりしないと思うのだが。  もちろん、『SILENT BLUE』で働くことも、八重崎と会うことも、湊にとってはとても大事な時間なので、それを尊重してくれることはとても嬉しい。  きっと竜次郎は、束縛することで得られる満足感が刹那的なものだということをよく知っているのだ。  湊は弱いので、一時の快楽に流されてしまいそうになるが、竜次郎はその先を考えているのだろう。  湊の世界を自分のみに限定しないこと。  何よりも湊の未来を考えてくれる竜次郎は、本当にすごいと思う。  八重崎との待ち合わせは、午後六時に目的地の最寄り駅。  湊が送ってもらった車から降りると、八重崎は既に指定の場所に立っていた。  あまり近代的とは言えない駅前に、作り物のような美少女(既に女性の姿だ)はかなり目立つ。  そこに黒塗りのセダンから降り立った自分が合流するのだから、道行く人も振り返ろうというものだ。  時間も帰宅ラッシュであり、もう少し目立たない場所で待ち合わせればよかったと思っても後の祭りである。  平日の夕方に外に出ることなどあまりないので人の流れを失念していた。 「お、お待たせしました」 「別に……時間より……早い……。八重子は少しこのあたりを見てきたから……」  この格好で付近を歩き回っていたというのか。  湊の地元で、松平組のシマでもあるが、あまり治安はよくないというのに。 「八重崎さんは護衛とかは付けないんですか?」 「一緒にいると邪魔くさい……」  以前はそれが面倒であまり出かけなかったが、最近は周囲の目を欺いて一人で外出すること自体が目的になっていると言う。  人騒がせな……というのは、こんな風に協力してもらっている自分が思うことではないのかもしれないが。 「これが……例のブツ……。そこのコンビニのトイレに男女はないから、そこで着替えるといいと思う……」  すっと有名ブランドの紙袋を渡される。  中にはどうやら衣服が入っているようだ。  頷き、コンビニに入ると手早く着替えた。  ウィッグを付けた自分はやはり母親にそっくりだったが、今はもう、悲しい気持ちになったりはしない。  こっそりトイレから出る。  もしかしたら気付いた人がいて多少不審に思われるかもしれないが、今回限りなので大目に見てもらいたい。  女装した湊の姿を見て、八重崎は「よし」というように頷いた。 「桜子……八重子達……イケてる……」 「イケて……ますかね……?メイクとか、しなくていいんですか?」 「湊は……ナチュラルなメイクが……できる……?」 「いえ、できないです」 「下手に盛らないほうがいい……と思う……。男は……地味な委員長が実は淫乱……という妄想から逃れられない生き物……」 「そ……、そう……なんですか……」  色々と深い。 「桜子は……ちゃんと女性に見えてる……問題ない……」 「それならいんですけど。みなと桜子ってなんだか……芸名っぽいですね?」 「若手女性議員にいそう」  ……選挙ポスターが見えた。…気がした。  八重崎と話をしながら歩道を歩く。  この辺りは駅前でも繁華街と言えるほどに賑わっているわけではないので、ドラッグを売りさばいているような場所があるというのがぴんと来ない。  八重崎が調べたところによれば、本件に関連すると思われるオンライン上のSNSなどで、何人かの若者が同じ名前の店を、投稿した文章に記していたという。 「……そこ」  八重崎が足を止めたのは、飲み屋街。  視線の先にあるのは、さびれた風合いのスナックだった。

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