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極道とウサギの甘いその後3−4

「え、二人ともレベル高すぎじゃない?どうしてこんなとこ来ちゃったの?」  主催と思しき青年の大袈裟な言葉に、近くにいた若者たちの視線が突き刺さり、湊は内心で焦った。  ほぼ上からかぶっただけの、酒の席の仮装と変わらないレベルの女装なので(八重崎も似たようなものだろう)、あまり見られると困る。  さびれたスナックの地下には、確かに若者がひしめくクラブがあった。  それほど広くはない。しかし通りの人通りの少なさや、外観のくたびれ具合からは想像もできない空間である。  八重崎が目的地として示した先、スナック「ゆう」の扉を開くと、黄ばんだ店内は薄暗く、スナックの方は営業はしていないようだった。  カウンターにいるヘッドホンをした若い男に八重崎が近寄っていく。 「リカの紹介で来た……」  それが実在の人物なのかどうかはわからないが、八重崎がスマートフォンを見せて金を払うと、特に身元を確認されるでもなく従業員用の扉が示された。  古いフライヤーが何枚か貼り付けられた扉を開くと、音楽が聞こえてくる。  狭い廊下の先に地下へと降る階段があり、そこを抜けると、別世界が広がっていた。  ミラーボールと赤や青の照明。狭いので、踊るよりも交流がメインの空間のようだ。  客は店の面積に対して過密に思えるくらいに入っている。ほとんどが若者であり、制服姿の者も見受けられた。  バーカウンターがあり、そこには客よりは少し年齢が上の青年が、派手なメイクの女性と楽しげに話しをしている。  クラブの主催者か、この建物の持ち主か、  おのぼりさんのように周囲を見ていると、八重崎が迷わずバーカウンターの方に突き進んでいくので、慌てて湊もそれに従った。  湊の格好は、クラブに行くには少し大人しいオフホワイトの細身のワンピースに、ふわっとしたセミロングのウィッグ、ベージュのパンプス。  八重崎は制服のスカートの上にビビッドな色合いのデザインパーカーをかぶって、首にはヘッドホンをかけている。  少々、謎の取り合わせに、カウンターのテーラードジャケットの男は一瞬驚いたような顔をした後、親しげに話しかけてきた。  どんな態度でいればいいか悩む湊とは違い、八重崎は堂々としたものだ。 「八重子……最近退屈だから……リカにここのことを聞いて……遊びに来てみた……」 「へー、嬉しいな。楽しんでいってよ。そっちの子はおとなしいんだね。こういうとこ来たことなかった?緊張してる?」  声をどれくらい作ったらいいのか迷って、こくこくと頷いておいた。 「桜子は……箱入りだから……。でも最近彼氏が構ってくれなくて寂しい……っていうから誘った……」 「そうなんだ!?こんな子ほっとくとかどんな鬼畜だよ」  フォローはありがたいが、その設定は有効なんですか、と心の中で肩を落とした。  仕方がないので竜次郎に構ってもらえない自分をイメージしてそれらしい雰囲気を出してみる。  ……イメージしただけで本当に悲しくなってきた。 「俺なら毎日連れ歩いちゃうけどなー……」 「桜子……ショーさんが次の彼氏に立候補してくれるって……」  いつの間にこの人の名前を……。  あとそんなに積極的に振ってこないでほしい。  演技力にはあまり自信はない。  つんつんと自分より頭一つ小さい八重崎をつつく。 「や、八重子ちゃん、やめなよ、迷惑だよ……」 「迷惑とかないって!あ、飲み物何にする?」 「八重子はタピオカミルクティー……」 「いやータピオカはないなあ。二人とも学生さんだよね?ソフトドリンクのメニューはこっち」 「ねえ、ショーさん」 「今行く。じゃあ、…また後で話せたら嬉しいな、二人とも」  他の客に呼ばれ、『ショー』の注意が二人から逸れた。  もう一人いたスタッフにそれぞれドリンクを頼み、受け取ると人の少ない隅の方の暗がりに移動する。 「流石……『SILENT BLUE』屈指のキャストは……男にモテモテ……」 「モテてたのかどうかはわからないですけど……ぐいぐい来ますね、こういうところの人って」  湊の生活圏内にああいうタイプの人間がいたことはない。やけに話すときの距離が近くて、少し引いた。 「あれは絶対に桜子に目を付けた…。ヤク漬けにして……モノにする気ムンムン……。強請れば、すぐブツがもらえそう」 「そんなに簡単に出してきますか?足がつけば、自分も危ないのに」 「そもそも、他人のシマで売買を始めるような人間……穴は大きい」  言って、八重崎が視線で示した先には、化粧室がある。  そこに女性が入っていくと、後から時間をおいてスタッフらしき男性が入っていくのが見えた。 「化粧室でブツをやり取りするのは……定番……」 「あれは……そういう……?」  そんなに安易に売りつけているものなのか。 「桜子も、あそこに連れ込まれるのがゴール……」 「い、一応……頑張ります……」  レコーダーもスマホもきちんとバッグの中に入っている。  きちんと証拠をつかんで帰らなくては。 「八重子は……ボディコンにジュリ扇でお立ち台……テクノで……オールナイトしてるから……逆ナン頑張って……」 「じゅりせん?」  耳慣れぬ言葉を聞き返すと、舌打ちをされた。 「最近の若い者は……ジュリアナ東京も知らんのか……」 「す、すみません?」  確か、八重崎とは年は大して変わらないと思うのだが。

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