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極道とウサギの甘いその後4-6

「え……竜次郎、まだ戻ってないんですか」  顔を見ないまま出勤して、無事仕事を終えて迎えの車に乗ると、運転してきた古参の組員のツネ(と周囲には呼ばれているがフルネームは知らない)から、南野に連れ回されている竜次郎は、まだ事務所にすら戻っていないと教えられた。 「南野の叔父貴はとにかく酒が好きなんで、代貸を説得するってえ口実で一日飲み歩いてるんでしょうね」  それは…本当なら大変そうだ。  そして説得するということは、やはり南野には自分はよく思われていないらしい。 「南野さんは…皆さんから見て、どんな方なんですか?」 「見たまんまの古きよき任侠です。怖いですけど、気前はよくて。代貸のことは昔から可愛がってて、何なら叔父貴の方が父親かな、みたいな」  竜次郎のことをそんな風に思っているのならば、湊のことを認められなくて当然だ。  たぶらかされているというのは少し違う気がするが、竜次郎が湊を甘やかすあまり仕事を疎かにしている(ように見える)のも確かである。 「あっ、もちろん俺たちは湊さんの味方ですから!」  湊が考え込むと、ツネはそんな風にフォローしてくれた。いい人だ。 「でも、やっぱり男で姐さん……っていうのは、あんまりないんですよね」  性にまつわることがどんどん多様化している今、男らしさ、女らしさという概念は、形骸化していくのではないかと思う。  しかし極道の『男』とはそういうこととは違って、古いとか新しいとかではなく、思想の一つのような気がするのだ。  だから、湊は安易に『認めてほしい』とは思えなかった。 「まあ、確かに聞いたことはないですけど…。湊さんが来てから代貸のみならず親父もなんとなく優しい感じだし、俺は今の松平組が好きですよ。湊さんは絶対うちに必要な人です!」  長く松平組にいる人に力強くそう言ってもらえて、湊はとても嬉しかった。  色々な考え方があるので、全ての人が満足できる結末というのは綺麗事かもしれない。  しかし松平組が好きなのは湊も同じなので、南野を含むみんなの幸せのために、なにかできることがあればいいと思った。  屋敷に戻ってきたが、竜次郎はやはり戻っていない。  ツネからは先に休んだ方がいいと言われたので、湊は素直に寝ることにした。  風呂に入りたかったが、こんな深夜に湯を沸かしたり掃除をしたり気を遣わせてしまうと悪いので、明日にしようとパジャマ代わりの部屋着に着替える。  朝から一度も連絡の入らないスマホを見てため息をつき、一人寂しく布団に入った。  ガタン!と大きな音がして、湊は浅い眠りから覚めた。  乱れた足音と人声が寝室に近付いてくる。  それが夢ではなく現実だと認識して起き上がるのと、襖が開くのは同じタイミングだった。 「みなとぉ、かえったぞ」  途端に酒臭い。  どうやらかなり酔っているらしい竜次郎はほとんど担がれるようにして部屋に入ると、そのまま布団に倒れこんだ。  驚いている湊に、竜次郎を連れてきたマサが頭を下げる。 「すみません湊さん、起こしてしまって。代貸は今日はずっと叔父貴に飲まされてたんですが、こんなでも湊さんのところに帰るってきかなかったので。……別の部屋を用意しましょうか?」  二つ敷いてある布団の真ん中で大の字になって唸っている竜次郎と一緒では安眠などできないだろうと思ったのだろう。  湊も泥酔している竜次郎は初めてで、不安ではあるが別々に寝るのも嫌だ。  気遣いに礼を言いながら、大丈夫なのでマサももう休んでほしいと伝えた。  マサが去ってから、スーツが皺になってはいけないと、ものすごく頑張ってズボンを脱がした。  酔っぱらいの介抱などしたことはないが、大変なんだなとしみじみ思う。  あとはもういいかと一仕事終えた気分で、竜次郎を少し押しのけて、その傍らで眠ろうかと思ったのだが。  移動させようと触れた途端、寝返りを打った竜次郎に抱き込まれて……、 「っ」  正確には、潰されたと表現するべきか。  どうしようという逡巡の間に、大きな手がぞんざいに身体を弄りはじめて、湊は目を瞠った。 「あっ、りゅ、竜次郎……す、するの?」  こんなに酔っぱらっていて、できるのだろうか。  体重をかけられているので苦しくて身じろぐと、逃がさないとでもいうように腕を押さえ込まれた。  酔っているからだとわかっていても、乱暴な動作にどきりと心臓が嫌な風に跳ねる。  顔も見えず、返事もない。  過去に乱暴をされそうになった記憶が勝手にフラッシュバックして、身体が竦んだ。 「ま、待って、竜次郎っ……」  願いが通じたのか。  ずるりと下着ごとズボンを脱がされたところで……唐突に竜次郎は動きを止めた。 「……竜次郎……?」  恐る恐る問いかけると、湊の上に突っ伏した竜次郎からは、安らかな寝息が聞こえてくる。  湊は、拍子抜けすると同時に、安堵の息を吐き出した。  しばらくリアクションを待ったが、竜次郎は今度こそ本当に眠ってしまったようで、微動だにしない。 「(……苦しい……)」  重すぎる肉布団からなんとか這い出し、悲しい気持ちでズボンを上げる。  今更ながら、マサの気遣いの本当の意味が分かった気がした湊だった。

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