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極道とウサギの甘いその後4-9
人が近付いてくる気配がして、湊は目を覚ました。
深く寝入ってしまったらしく一瞬ここがどこだかわからなくなり、ぼんやりしながらもバックヤードで仮眠をとっていたのだということを思い出す。
もそもそと起き上がるタイミングで、ドアが開いた。
「だから、あんたはなんでそういう……」
怒ったような口調で文句を言いながら入ってきたのは、新人の鈴鹿万里だ。
ふわっとしたベリーショートに、まだ少し幼さの残る柔らかい頬のライン。瞳はくりっと大きめで、素直な気性を映し出している。
もう一人、鈴鹿に文句を言われて楽しそうに笑っているのは久世昴だ。
いかにもエグゼクティブといった風情のスーツの似合う男で、均整の取れた体躯と甘い顔立ちは、見目のいい客の多い『SILENT BLUE』の関係者の中でも群を抜いている。
二人はすぐにソファに上体を起こしている湊に気付き、心配そうに表情を曇らせた。
「桜峰さん、寝てたんですか?まさか具合が悪いとか…」
「ううん、少し寝不足だったから、鹿島さんが寝てろって勧めてくれただけ」
時計を見ると、開店にはまた早い時間だ。
この二人は鹿島の作る賄いを食べるために早めにきたのだろう。
あまり込み入ったことはわからないが、この二人は付き合っている……八重崎曰く『結婚している』のだそうだ。
鈴鹿は素直で明るくていいスタッフだし、鈴鹿が来る前は湊を指名してくれていた久世も人を楽しませることが得意でとても優しい。
そんな二人は気が合うようで、『SILENT BLUE』に来た当初は暗い顔をしていた鈴鹿はすっかり元気になり、人生を謳歌しているようでいてどこか退屈そうだった久世も鈴鹿といるととても楽しそうだ。
大切な人たちが幸せそうなのを見ると、湊も嬉しくなる。
この二人にはずっと幸せでいて欲しい。
湊は元気であることを示すように立ち上がり、微笑んだ。
「もし食事をするなら、今日は城咲さんと鹿島さんと作った肉じゃががあるので、よかったらどうぞ」
それを聞いた久世は楽しげに口角を上げる。
「一が来てたのか。それは楽しみだな」
「はじめって?」
「一輝の師匠だ」
「あっ、あのスープの!」
鈴鹿の目が期待に輝く。
以前二人の結婚祝いにと、城咲の監修したホテルのスープセットを贈ったことかあった。
チーフと相談して、二人には食べ物がいいだろうということになったのだ。
鈴鹿のキラキラした瞳を見れば、その選択が正しかったことがよくわかる。
「一と一輝『と』ってことはお前も作ったのか?」
「はい。でも味付けは城咲さんなので、すごーく美味しいですよ」
にこにこすると久世も笑ってくれた。
やりとりを見ていた鈴鹿が唇を尖らせる。
「桜峰さんって……なんか、この根性悪が大人しくなる魔法とか使ってるんですか?」
久世の根性が悪いと思ったことは一度もないが…彼のからかうような構い方は、人を楽しませようというサービス精神なのではないだろうか。
湊はなんと答えればいいのか困った。
「まあ、そうだな。眠兎は初めて酒で俺を負かした男だからな。俺も少しは礼をもって接してるかもな」
「は?」
肩を竦め、代わりに答えてくれた久世を、大きな瞳を見開いた鈴鹿が信じられないというように凝視する。
負かした?
湊は久世を接客した記憶を辿った。
「ああ…あのときの」
確かに以前、久世とは飲み比べをしたことがある。
懐かしいなと湊は目を細めた。
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