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極道とウサギの甘いその後4-19

 対決は、湊が想定したよりも長引いていた。  南野はやはり、飲み方がうまい。  ハイペースで飲みながらも、合間に頼んだ食べ物を摘まんでいる。  痩せの大食いという言葉もあるが湊は当てはまらないし、やはり容量では体が大きい南野の方が有利だろう。  互いにテキーラを一本ずつ空けると、南野が飽きたというので途中からブランデーに変わった。  人によっては、酒の種類で体に合う合わないがあるらしいが、湊には特にそういうものもないので変えることには問題はない。  ただ……。 「(だいぶお腹いっぱいになってきちゃった……)」  酩酊感は未だに感じていないが、満腹感はそろそろ限界に近い。  もう一本は厳しいなと思いながら、注ぎ足されたブランデーを飲み干した。 「……、」  南野の番になったが、グラスに伸ばされる手は途中で止まった。  あれ?と思う間もなく、ぐらりと上体が傾き、ぱったりとカウンターに突っ伏してしまう。 「……南野さん?」  肩をゆすっても、意味不明の言葉がボソボソと聞こえてくるばかりで、急性アルコール中毒ではないかと心配になってママを見ると、紫のワンピースのよく似合う年上の美人は肩を竦める。 「普通につぶれただけだから、大丈夫よ。というかこんなペースでこれだけ飲んだら普通こうなるわよ」 「そういうものなんですね」  数々の飲酒シーンを見てきたであろうママが言うのだから、そうなのだろう。  納得して頷いたが、「何故お前はそうならないのか」という目で見られ、自分でも何でだろうと不思議に思う。  「湊ッ!」  勝ったはいいが「潰してしまってどうしよう」と悩みかけたとき、バンッとドアが乱暴に開けられ、息を切らした男が駆け込んできた。 「あ……、竜次郎、お疲れ様」  どうやら、バレてしまったようだ。対応に迷い、白々しい挨拶をしてしまった。  続いて入ってきた日守は竜次郎とは違い涼しい顔で、竜次郎の足止めをできなかったことを詫びるように頭を下げる。  もう終わったところだから大丈夫だと首を振ると、横から何やら驚いた表情の竜次郎に「おい」と声をかけられた。 「あー……一応確認なんだが、お前が勝ったのか?」 「うん。飲めなくなった方の負け……ってことで始めたから、俺の勝ちでいいんだと思う」  竜次郎が、真偽を確かめるようにカウンターの向こうを見る。  問われたママは呆れたような顔でため息をついた。 「忠さんも歳だから……っていうのもあるかもしれないけど、それにしてもボトル二本飲んで一切酔った様子がないっていうのは、ちょっと珍しいわ」 「……………………………」  竜次郎が黙ってしまったので、湊はだんだん不安な気持ちになってきた。 「りゅ……竜次郎。ごめん、勝手なことして」  竜次郎の肩が震えている。  勝手なことをして、怒らせてしまっただろうか。 「ふっ……、ははっ……はははははっ!湊、お前っ」  唐突に、吹き出した竜次郎の笑い声が狭い店内に響く。 「え……あの、竜次郎……?」  なぜ爆笑なのか。  わからず狼狽えた湊の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、そのまま胸元に引き寄せる。 「お前……っ、最高だな!」  見上げた瞳はとても楽しそうで、湊は恐る恐る問いかけた。 「竜次郎……?怒ってるんじゃないの?」 「は?なんで怒るんだよ。あの叔父貴が酒で負けるなんて、いい気味じゃねえか。つぶれてんのなんか初めて見たぜ!」 「虎の威を借る」 「うっせーぞ日守」  なんだかわからないが、怒ってはいないようだ。  竜次郎が笑ってくれたことにほっとして、湊も笑った。

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