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極道とウサギの甘いその後5-15
「くそ、取り上げろ!」
驚きが過ぎ去り、武器を取り上げようと向かってくる男達だが、湊のことは力ずくで制圧することが出来ないため、じりじりとお見合いになった。
この状態でも多少は竜次郎たちへの負担を減らせているだろうが、最終的には全員制圧しないと、このクラブを脱出することはできない。
彼らに自分から攻撃するべきか。
しかし、一瞬で意識を失うほどの電圧が怖すぎる。
市販のスタンガンはこんな威力なのだろうか?違うだろう。
そんなものを誰でも簡単に購入できるのであれば、もっと犯罪などで多用されていそうだ。
それに、先ほどは不意打ちだったので上手くいったが、今度は相手も身構えている。
至近距離でしか使えないというスタンガンの特性上、下手に近寄って逆に奪われるようなことがあれば、相手に強力な武器を渡してしまう事態にもなりうる。
逡巡の後、今自分がすべきことは戦うことではない、という結論に至った。
油断なく見合いながら、湊は他にも何か役立つギミックが仕込まれていないだろうかと、つるりとした側面を探る。
底面のスイッチを押すと、小気味よい音と共に、警棒が飛び出した。
「(これは……)」
スタンガンよりも、こちらの方が使えるかもしれない。
「おい、スタンガンじゃなくなったぞ!」
「早く取り上げちまえ!」
形状が変わったことをチャンスと思ったのか、男達が迫ってくる。
湊はその警棒で応戦したりはせず、ぱっと踵を返した。
逃げ足の速さには多少自信がある。
伸びてくる腕をすんでのところで避けながら、混戦で離れてしまっていた竜次郎たちの元へと辿り着いた。
追ってきた男をマサが散らしてくれる。
「日守さん、これ使ってください!」
特殊(色々な意味で)警棒を日守に渡した。
形状を思えば、ジョークグッズとの親和性が皆無の日守に渡すのは躊躇われたが、今はそんなことを言っている場合ではない。
足を怪我しているせいで、日守は不利な状況だ。
武器があれば、攻撃力の上乗せになるだろう。多少短いが杖の代わりにもなるだろうか。
常に冷静な日守は、「助かります」と素直に受け取ってくれた。
「湊」
敵の攻撃を裁いた竜次郎が、誰かが落としたナイフを足で寄せてくる。
湊は頷くとそれを手に取り、二人の足元に椅子ごと横たわるヒロを拘束するロープを切った。
近くで改めて見ると、ヒロの状態はかなり悪く、湊達が来るまでに苛烈な暴行を加えられていたことが分かる。
意識はあるようで、拘束が解けると震える腕で体を起こした。
「湊さん……すみません……」
「大丈夫、みんなで一緒に帰りましょう」
安心させようと微笑むと、ヒロは涙目で頷く。
多勢に無勢なこの状況。制圧するのではなく、上手く後退して逃げることはできないだろうか。
そんなことを考え顔を上げると、驚いたことにもう周囲に立っている敵対者はなく、日守が最後の一人の相手を終えたところだった。
先程までの混戦状態はどこへやら、なんと八重崎の『お守り』は、警棒の形状になっても放電できたらしく、日守は容赦なく機能を使い倒したようだ。
拍子抜けしたような表情のマサ。
脱出できるようになったというのに、なんとなく釈然としない表情の竜次郎がぼやく。
「お前……、その武器は反則だろ」
「形状はともかく、大変優秀な武器ですね」
倒れ伏す人々の中、真顔でオナホを握りしめている日守。
ちょっとシュールに過ぎる光景だった。
この展開も、八重崎の……?否、深く考えるのはやめておこう。
ともあれ、ヒロだけでなく、日守も一刻も早く医者に見せないといけない怪我をしているのだ。
動けないヒロをマサが担ぐと、竜次郎が日守に肩を貸し、五人で『QO』を脱出した。
車まで戻り、日守を助手席に座らせた竜次郎は、迷わず運転席に乗り込んだ。
湊もヒロの怪我に障らないよう気をつけつつ、マサと共に後部座席へと乗る。
マサがいるのに竜次郎が運転することを不思議に思っていると、マサは置き去りにしてきたもう一台の車に乗って戻るため、すぐに下車するとのことだ。
「竜次郎、車の運転できたんだね」
「そりゃまあ、ヤクザには必携のスキルだからな」
「そうなんだ。俺も免許あった方がいいかな」
こういう時に、運転ができれば竜次郎の役に立てるのでは。
名案と思ったが、バックミラーには眉間の寄った目が映っている。
「お前は逃亡手段を増やすな」
確かに、今後また突然勝手に思い詰めて、衝動的に竜次郎の元から逃亡を図らないとは、我がことながら断言できない。
「それもそうかも」
流石に竜次郎は湊の習性をよくわかっている。
湊はとても感心したが、竜次郎は、納得すんなよと肩を落とした。
竜次郎は、日守とは打って変わって安全運転だった。
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