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前話
「お誕生日おめでとう秀吉!!ワッハッハ、めでたいな。実にめでたい」
月城医大の職員室前で政宗と会った秀吉は、豪快に笑う政宗からお祝いの言葉を貰っていた。
その政宗の後にフラリと現れた幸村。
「誕生日おめっと~。これ、俺が今ハマッてる駄菓子のセット。味は保証するゼ♪」
と、駄菓子セットを秀吉に手渡し
「あと、さっきの伊達川の大声で皆がお前の誕生日を知る事になったわけだけど、…ま、頑張れヨ」
と、若干同情するような言葉を残し幸村は去って行った。
その幸村の言葉通り、その日一日、行く先々で病院スタッフからお祝いの言葉を受ける事になった秀吉。
もちろん、いつものメンバーも例外ではなく、プレゼントと共に秀吉をお祝いしてくれる。
長政からは動物の形をしたホワイトチョコ。
慶次からは小児科の子供達とうたう歌。
三成からは三成オススメのブランド白米。
光秀からは「炙って食べるとうめぇぞ」と何故かスルメをプレゼントされていた。
そして犬猿の仲である信長からはホットアイマスクを手渡され、つい口がスベった秀吉。
「僕が優しいと気味が悪いって?今日ぐらいは優しくと思ったけど、…いつも通りメスの方がいいみたいだね?」
と、不機嫌になった信長にメスを突き付けられ、あわててホットアイマスクを受け取った秀吉だった。
就業時間後―――。
「はあ~、こんなにたくさんお祝いしてもらったん、俺、初めてかも」
嬉しそうにはにかむ秀吉は、自分の車の後部座席に皆から貰ったプレゼント積み込んだ。
この後の俺とのデートの荷物にならないように一時的に置きに来たのだ。
「…良かったな、秀吉」
俺がそう言うと、車のドアを閉めた秀吉が振り返り俺の顔を覗き込んできた。
「…で、どないしたん?」
「…え?」
「今日一日、どことなく不機嫌そうやったやろ?」
俺の目はごまかされへんで?と得意気に秀吉が笑う。
「…そんなに顔に出てたか?」
「いや。たぶん他の人らは気付いてへん思うで?いつもソバにおる俺やから気付けた程度のもんやったから」
「…さすが、秀吉だな」
「せやろ?」
口角をあげニヤリとする秀吉だったが、ふっと表情を変え心配するように問いかけてくる。
「…で?何かあったん?」
秀吉にそんな表情をさせてしまった事に申し訳なく思った俺は、今日感じていた思いを素直に白状した。
「…今日は秀吉の誕生日で、皆が秀吉をお祝いしてくれただろ?」
「……せやな」
「…秀吉も嬉しそうで、皆と話をしてるのも楽しそうで、…それはとても良い事だと思うんだが…」
「………ん」
「……俺の秀吉なのにって。…俺が誰よりも一番、秀吉を祝いたいって思ってた」
「………真琴。…それって、やきもち…」
「……たぶんな」
俺の告白に顔を真っ赤に染める秀吉。
つられて俺の頬も熱を持つ。
「……あかん。真琴がそないな風に思ってたなんて、…顔が弛むわ」
「…し、仕方ないだろ。それもこれも秀吉が可愛いからいけないんだ」
「あはは、俺のせいなん?」
「………悪い。…秀吉のせいじゃない」
「ぷっ。ええよ、ええよ。そんだけ真琴に想われてるって事やんな?心配せんでも俺はちゃあんと、真琴のもんやで?」
そう言って秀吉が俺の手を取り、きゅっと握ってくる。
「…秀吉」
「真琴もせやろ?…俺の、もの?」
「あたりまえだ」
俺は即答すると、握られた秀吉の手を強く握り返す。
そんな俺の様子に秀吉が、ふふっと笑う。
「真琴、かわええなあ。誕生日なんてただ年をとるだけや思てたけど、今年はええもん見られたわ」
くすくす笑う秀吉に赤面しつつも目を奪われる。
(可愛いのはお前だ!秀吉!この場で押し倒して、あんあん言わせてやろうか!)
と、思考が暴走しそうになったので、秀吉の手をグイッと引っ張る。
「…ほら、行くぞ。水族館を回る時間がなくなる」
「せやな。せっかくの水族館デートやし、はよ行こか」
そうして俺たちは、握っていた手の指を絡め恋人繋ぎにすると、水族館へ向かったのだった。
その日の夜――。
「うわっ、ひろっ。今夜はこの部屋に泊まるん?」
「ああ、そうだ。明日は休みを貰ってるし、ゆっくり朝寝坊も出来るぞ」
部屋に入り、ぐるりと中を見回した秀吉が目元をほんのり染め、俺を見る。
「……真琴、今日はほんまありがとう。…水族館楽しかった。…ディナー美味しかった。プレゼントも貰って、…俺、こんな嬉しい誕生日、今までにないわ」
今にも泣き出しそうな秀吉を、俺は正面から優しく抱きしめる。
「…ばかだな、秀吉。こんなのこれからいくらでもやってやる。来年もその次も、俺が秀吉の誕生日を祝ってやるから、秀吉はただ笑ってればいいんだ」
俺の腕の中で、コクリと頷く秀吉がいとおしい。
俺は秀吉の顔を上向かせると、ゆっくりと唇を近づけた。
「…せやっ」
が、唇が触れる寸前に秀吉が急に声をあげ、俺の腕の中からスルリと抜け出した。
そして自分のバッグを引っ掻き回すと、見つけた何かを後ろ手に持って、俺のソバに戻って来る。
「なあなあ、真琴にお願いがあるんやけど。俺、誕生日やし。聞いてもらってもええ?」
さっきの泣きそうな顔はどこへやら、小悪魔のような顔で笑って俺に迫ってくる秀吉。
「……それはお願いじゃなくて、強迫じゃないのか?」
「ん~?そんな事あらへんよ?真琴が快く飲んでくれたら、俺の可愛いお願いを聞いてくれた事になるやんな?」
「………飲む?」
「そ♪これっ♪」
と、秀吉が後ろに隠し持っていたモノを目の前に差し出した。
それはいつか職場の休憩室で見た、真っ黒な液体の入った小瓶だった…。
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