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第2話

綺麗に整えられた今どき風の眉、しゅっと通った鼻筋。意志を強く宿した二重の眼に形の良い薄い唇。トップを掻き上げた様にパーマが緩くかかったオシャレな黒髪のショートヘア。平均的な日本人男性より腰の位置が明らかに高く、全身が嫌味なく均等に鍛え上げられた魅力的な雄の体躯。 誰が見ても一流モデルの様にしか見えない甘いマスクの男、見城風雅(けんじょうふうが)は全てが地味で小柄な俺、小泉椿冴(こいずみつばさ)の自慢の幼馴染だった。 元々家がお隣りさん同士で、小中高と毎日ずっと同じ学校へ並んで通っていた俺たち。 学年でもトップクラスの優秀な成績だった風雅は、都内の有名エリート大学へ。勉強があまり得意では無かった俺は、同じ都内でもFランクと呼ばれる名もなき大学へとそれぞれ進学した。 大学こそ離れ離れとなってしまったが、俺がスーパーマーケットでバイトを始めたことを知った風雅は「一緒にいたいから」との理由で四年間バイトも一緒。キャンパスライフより俺との時間を優先した。俺が女だったら、確実に恋に落ちていたかもしれない。 何処へいても一際目を惹く風雅が、何故か地味な俺を選んでいつも一緒にいる。 確かに周囲からも揶揄される程、不思議な光景かもしれないが幼馴染みとはそんなものではないだろうか。そう思っていた俺は、特に疑問を感じることも無く現在まで来てしまったが――。 不意に黒いショートコートのポケットにしまっていたスマートフォンが振動する。 「はい、俺だけど」 感情を全て押し殺した声で俺は電話へ出る。 『椿冴、今年も大晦日はウチで過ごすよね?』 出逢った頃から今まで、大晦日だけは必ず俺たちは風雅の家で年を越す。幼い頃からの暗黙の了解。 だが今の俺の気持ちを何も知らない風雅は、いつも通り耳に心地好い低い声色で毎年の大晦日の決定事項を俺へと伝えていた。 何も後ろめたいことなんて何も無い様な口調だ。 俺たちは今年二十八歳、社会人になってから五年。地元の小さなデザイン会社の営業をしている俺でさえも、この頃は責任ある仕事をそれなりに任される様になってきていた。 風雅と言えば、誰でもその名を知る都内大手の総合商社に就職。当然海外出張も多く、家が隣り同士だというのにすっかりその姿を見掛けない。 そんなアイツが昨年の春から最年少係長へと昇進したことを地元の同級生から聞いた。 肝心なことをいつも俺には話してくれない。 アイツとの距離を意識し始めたのはこの一件からだった。 就職活動中、引く手数多であったエリートの風雅は事もあろうか、当時ブラック企業しか内定を貰えていなかった俺と同じ職場への就職を「ずっと一緒にいたいから」。バイトの時と同じ、安易な理由だけで希望した。勿論、俺は反対した。 建前ではエリートである風雅を慮って反対したが、内心は自分で就職先を選べる優秀な風雅へ同じ男として酷く嫉妬していたからだ。 今思えば、こんなにも逢えなくなって寂しい思いをするのであれば、くだらない男のプライドだけで反対なんかしなければ良かった。 否、そもそも幼馴染みと逢えなくなって“寂しい”と想う感情は普通なのであろうか。それとも異なものなのだろうか。 漠然とした気持ちから、俺にとって風雅が大切な存在であったことにようやく気が付いたのは全てが手遅れとなっていたつい今仕方。 地元の仲間との忘年会でのことだった。

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