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第3話
「 風雅のヤツ、年明けにデキ婚するらしいよ」
青天の霹靂もしくは寝耳に水、というのはまさにこのことを言うのだろうか。
つい数時間前、毎年恒例地元仲間との忘年会でそんな話を聞いた。当の本人である風雅は出張先でトラブルが起き欠席。
またもや重大事件を、俺は本人以外のヤツから聞いてしまった。
この一年も、多忙過ぎる風雅と直接顔を合わせることは無かったが、時折伝達アプリを通して連絡は取り合っていた。そこで、アイツが結婚どころか彼女の存在を仄めかしてきたことは一度足りとも無かったはず。
一体いつからそんな存在が……。
結婚だけでなく、ましてや子どもまで授かっていたとは。
仲間は皆、だいぶ前から知っていたと話していた。そもそもアイツの一番近くにいたはずである俺が、結局また最後まで何も知らされていなかっただなんて。
頭が真っ白となる。
そう言う大事なこと、って普通誰よりも先に俺に報告するんじゃないのか?
毎年大晦日に二人きりで過ごす程、俺たちって仲良いんじゃないのか?
否、もしかすると大晦日に俺へ話そうとしたのか?
俺だけが知らない“男”としての風雅の話が、俺を苦しめていく。
「いよいよ、風雅のヤツが結婚かぁ」
「俺はてっきり椿冴のお守 りを一生するのかと思っていたぜ」
「いや、お守りというよりはどっちかというと椿冴が付き纏ってただけじゃね?」
仲間たちが口々に話す言葉は、俺の苛立ちを余計加速させていた。
うるせぇよ。
お前ら、俺と風雅の関係性を知らないから。
あれ、“俺と風雅の関係”?
って、そもそも言葉にすると何なんだ?
不意に抱いた疑問に、俺は自問自答する。
幼馴染?
仲の良い友達?
それとも――仲間 と同じ扱い?
否、いつも大事なことは知らされていないからそれ以下か……?
俺だけが風雅を自慢の幼馴染みだと思っていたのだろうか。
華やかな経歴を手にした風雅からすると、ただ家が隣り同士のだけで頭も良くない、名もなき会社へ就職した俺は、幼馴染みである事実でさえもいつの間にか消したい過去となっていたのかもしれない。
いつもであればほろ酔い気分で家路へと着く俺だったが、途中から仲間たちの会話が何一つとして耳に入らなかった。胃部に強い不快感を残しながら、珍しく二次会へは行かず独り帰宅した。
自身の家の前まで来たところで俺は、隣りの家の風雅の部屋である二階角部屋の窓をそっと見上げる。
相変わらず部屋の灯りは付く様子も無く、暗いままだ。
もしかすると、仕事が忙しすぎて帰宅できてなかったのではなく、とうの昔に結婚相手の女性と同棲して実家を出ていたのかもしれない。
キリキリと痛む胃を押さえ、自身家の中へと入ろうとしたところで風雅から先程の電話が俺のところへとかかってきたのだった。
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