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第11話
何も隠すものが無くなった俺たちは、いつの間にか寄り添って眠りへとついていた。
暖房が効いた狭い部屋ではあったが、風雅のぬくもりを直に感じていない箇所は酷く底冷えしてしまっている様な気がして覚醒してしまう。
「今、何時だろう」
ベッド脇にあるサイドテーブルから自身のスマートフォンを手探りで引き寄せ、電源を入れる。
数時間ぶりに画面に明るさを取り戻したそこには、風雅からの沢山の着信やメール等の形跡。
その一つひとつのメッセージが都度俺の胸を焦がす。
「切ないなぁ……」
始まった瞬間既に終わりが確定していたこの関係に、つい本音が口から漏れてしまう。
現在の時刻は、日の出間近。
抱き合っている間に、どうやら新しい年へと変わっていた様だった。
安らかな寝息を立てる無防備な風雅に、自然と頬が緩む。
寝返りで剥き出しとなっていたその額に軽くキスをすると、俺はそっと床へと降り立ち脱ぎ捨てられていた服を拾う。いつも通り下着へ片脚を通そうとすると、不意に後孔へと衝撃が走る。
風雅が俺を貫いた証。
鈍い痛みが、全て夢では無かったことを教えていた。
今、俺の心は酷く幸せで充たされている。だがこの先、もう二度とこの幸せが訪れることは無いのだと知ると、途端に俺の胸の奥は言い様の無い絶望感に襲われた。
初日の出を二人で見るのは今年で最後。
痛い程そんなことを分かってはいたが、何故だろう……今の自分は酷く独りで泣きたい気分だった。
音を立てない様にカーテンを潜り、ガラス戸を少しだけ開ける。僅かな隙間から、強い向かい風が部屋へと入り込む。
「寒っ」
微かな声でそう呟いた俺は、外気がこれ以上部屋に入らない様独り外へ出る。
空はいよいよ雪が降りそうな表情を見せていた。
この天候じゃ、今年の初日の出はよく見えないかもしれないな。
一瞬にして全身の温もりを奪われた俺は、それでも日の出の瞬間を見ていたくてぼんやりと漆黒である東の空を眺めていた。
「俺たち、何が正解だったのかなぁ」
不意にそんな言葉が口をついてでてしまう。
「何が、“正解”……だって?」
背後から不機嫌そうな口調と共に、風雅の大きな腕が俺という存在を確かめる様に強く抱き締めた。
「――どうして俺を置いていこうとしたんだよ?」
ギュッと俺をきつく抱き締める風雅の声は、酷く震えている。
「椿冴、あったかい」
「バカだな、そんな格好して。風邪……引くぞ?」
上半身裸のままの風雅。慌てて俺の後を追って来たことが分かる。
焦りと安堵。言葉にしなくとも、俺へと伝わってくる。
“好き”だとか“愛してる”だとか。そんな簡単な言葉を口に出して言えないことが、こんなにも辛いだなんて――。
無意識の内に俺は込み上げくる何かにより、目頭を熱くさせる。
すると不意に、俺の熱くなった心を鎮める様に冷たい何かがふわりふわりと頬へ降り立った。
「あ、雪だ……」
予報通りだ。そう思った俺は、凍えた風雅の身体を、今度は俺が包み込む様にしてギュッと強く抱き締める。
「風雅の身体、まるで氷の様だな。今度は、俺が……暖めてやるよ」
そう告げた俺は、風雅へと優しいキスをする。
大胆なその行動に、俺自身酷く困惑したが既に火がついてしまった内なる衝動を止めることは難しく、風雅の熱を初日の出を見届けることなく最奥で何度も受け止めたのであった。
結局、風雅は最後まで何も話そうとしなかったし、俺からも何も聞こうとはしなかった。
都合良くそう簡単に“キセキ”が起きる訳も無く……。
初めて恒例行事である初日の出を見逃した俺たち二人は、この日を境に別々の道を歩むこととなったのだ――。
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