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蝶ネクタイで1枚
「ねえ、なおちゃん。ドレス、着たくない?」
係りの人を待っている間に香織さんからそんなことを聞かれた
「......着てみたい、です。でも......」
伊織が笑われたら?
望月家の人に迷惑をかけたら?
そんな不安が拭えない
ギュッと膝の上で拳を握った
「......なおちゃん。私ね、こうして息子のお嫁さんと2人でどこかに出かけることが夢だったの」
「え?」
「兄弟3人!見た目も悪くないのに!中身は......ちょっとアレだけど。でも、誰も特定の恋人すらいなくてね?だから、私どこで育て方間違えたかしらって」
握った拳を片手ずつ香織さんの手が優しくほどいていく
「でも、伊織があなたを連れてきた......あんなに柔らかくて優しい顔して。幸せそうに」
少し冷たい香織さんの手が僕の手を包み込む
「伊織があなたを連れてきた夜、すごく嬉しくて泣いちゃったのよっ......それだけ私たちにとって嬉しいことなの。恥じることなんてなんにもないわっ!」
ギュッと抱き締められた
伊織や遥たちとも違う安心感に包まれる
......あったかい
「私たちの大切な家族の一員よ。笑うやつなんて切っちゃえば、いいのよ」
「バカなこと、言ってごめんなさい......」
『私たちの大切な家族』という香織さんの言葉は、なによりも嬉しかった
「ふふっ、いいのよ。私があなたでも、悩んだでしょうから。ドレス......着てくれる?」
「はい。着てみたいです」
「よしっ!沢山選んじゃいましょう?あ、1つだけ......」
香織さんが持っていたやたらと大きさのあるバッグの中に手を突っ込む
「な、なんですか?」
1歩後退り聞き返すと――
肩を竦めてバッグから3脚と一眼レフカメラを取り出した
「あのね、蝶ネクタイのモーニング着て私と写真撮ってくれる?」
茶目っ気たっぷりの仕草に、さっきまで肩に入っていた変な力が抜けていく
「はい!」
香織さんの温かさと彼女の楽しさに救われた
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