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3 縮みすぎた距離
結局あの後、コンビニに行く俺についてくと言い出した啓太もつれてコンビニへ向かい、目についた酒を購入。帰ってきてプルタブを起こしたら最後、布なんて一切触ることは無かった。
過去、コスプレをしていてこんな事があったと啓太が語る内容はどれも知らない世界で、聞いていて楽しい。他にも格好いい写真の失敗例を見せてくれたりと、ただの飲み会で終わってしまった。
俺の酔いが大分回って気持ち良くなってきた頃には、啓太はヘロヘロで、テーブルに突っ伏していた。ちなみに、きた当初にテーブルを陣取っていたミシンは寂しく部屋の隅に置かれ、その隣に寄り添うようにして作業中の布が雑に広げられている。
まち針なんかが出っぱなしで危ないけど、片付けるのが面倒なぐらいには酔っ払ってる俺は、見なかったことにする。
「おい、けーた、そんなとこで寝んなって」
「うう~…?あおちゃんら~…」
啓太が座ってる方は、後ろはすぐにベッドだ。とりあえずベッドに放り込もうと脇の下へ腕を差し込んで持ち上げてみる。ぐったりしてるせいでめちゃくちゃ重い…!
気合いを入れ直そうと一度力を弱め、目を瞑って深く息を吐いた所で、突然腰に衝撃が走った。
「うわぁ?!」
勢いのまま後ろへと倒れる。後ろに控えていたのがベッドで良かった…すごい痛くないけど、まあまあは痛い。
顔をしかめながら目を開ければ、腰に抱きついている啓太の姿があった。いつも通りヘラっとしてるんだけど、目が据わってる。
「お前なぁ、危ないだろ」
「ふふふ、あおーちゃん、久しぶりだねぇ」
「だめだー、話し通じない」
腹に頬ずりしている啓太は、嬉しそうに上へとよじ登ってきた。俺の頭が啓太の肩口に納まる程度まで上がってくると、腕が回ってきて抱き寄せられる。
「お、おい…?!」
俺の声なんて聞こえてないんだろう…力任せに体を反転させて、枕の位置までやってきたら、満足げに笑った。
「かわいいなぁ~、あおちゃん。ほんとすき」
二回連続でつむじにキスをした啓太は、そこまでで動きが止まる。すーすーと穏やかな寝息を立て始めて、完全に寝落ちだ。
「ったく…仕方ないやつ」
顔を上げて啓太に視線をやれば、だらしなく口を開けて寝ていた。
なんだか可愛く思えた幼なじみの顔を、眠りにつくまで見続けてしまった。
◆
この前飯を作りに行ってから、啓太は飯を作って貰うって事に味をしめたらしい。衣装の進捗をLINEで送ってくるんだけど、それと一緒に食べたい物を言うようになった。
納豆ご飯ばっか食って過ごしてるのを聞いてもいたし、金曜の夜なら作りに行っても良いと返せば、そりゃあもう全力で食いついてきた。
2週連続で仕事帰りにスーパーで買い出しして、啓太のマンションへやってくる。これは絶対に今後もあり得ると思って、足りない調味料は全部買い足してやった。
「あおちゃん、待って。料理する前にこれ」
前回同様、すぐに飯を作り始めようと腕まくりをしていたら呼び止められる。振り返れば、啓太が部屋着を差し出してきていた。
「スーツ汚しちゃ大変でしょ?俺のだけど、これ着て?」
「お、サンキュー。遠慮無く着させてもらうわ」
受け取って、すぐに下のインナーごとYシャツを脱ぎ捨てる。ボタンを外すの面倒だから、脱ぐときはいつもこのスタイル。このまま洗濯にだすと、お袋にクソ怒られるけど。
貸して貰った上着を着て、腕の長さの違いを思い知る。分かりきってたことだから、冷静に袖をまくり上げて対処。スラックスも脱いで下も履き替える。いや、分かってる…長さが絶対に合わない事も分かりきってる…。全然悔しくなんかない。
屈んで足下を2回ぐらい折り曲げ顔を上げたら、赤面して口をきつく噛みしめこっちをガン見してる啓太と目が合った。
なんだよ…そんなにおかしいか…!そんなに身長差で笑いたいのか…!
「も、文句あるか?!」
「ふぇ?!あ、えっと…ッ、」
「小さくて悪かったな、お前身長伸びすぎなんだよ!バカ!」
「え、あ、え、そっち…?」
「なんだよ!」
「あ、う、ううん!違うよ!あおちゃん尊いって思ってただけだから、ちっちゃいなぁって笑ったわけじゃ無いからね!」
絶対に信じられない。尊いってなんだ、意味分からない。
強めに睨み付けたけど、顔の前で激しく両手を振って無実アピールする啓太は、それ以上言ってはこなかった。
悔しいけど、ここで言い争っててもどうしようも無い…分かったよって返して、ため息をつきながらキッチンへと向かった。
啓太がミシンを使ってる間、手伝う事なんてほとんど無い。
布を切り出した時は、端を折ってまち針で止めるなんて仕事もあったけど、仕事はその時きりだった。
暇だし、邪魔だろうし…することが無いんだから帰ると言うと、啓太がぐずりだした。居ることに意味があるんだよぉ!と力説され、流されて…今はベッドの上に座ってテレビを見ている。
すぐ隣ではこっちに背中を向けてミシンへ向かう啓太。デカイ体を縮み込ませてて、窮屈そうだ。
しばらく続いたミシンの音が止まる。
一区切りついたようで、布を引っ張りだし糸を切ったら、大きく伸びをした。ポキポキ音が鳴って、肩こり酷そうだ。
「すげー音だな」
「あはは…やっぱ同じ体勢してると、固まっちゃうよねぇ」
苦笑しながら大したことないよって言ってるが、首の骨の鳴り方が尋常じゃないぞ…。
四つん這いで啓太の方へ近寄ると、広い肩へ手を伸ばす。親指に力を入れて強めに揉んでみたらコイツ肩は想像以上に凝り固まっていた。
「あ、あおちゃん?!」
「かった…!」
「大丈夫だよ?あおちゃん?」
「じっとしてろって」
そわそわしながら俺の方へ振り返る頭を両手で掴むと、前を向かせる。もう一回背中を揉んでやったら、途端に大人しくなった。気持ち良さには抗えないんだろう。
無言のまま指に力を入れて、自分が揉まれて気持ち良い所を押してやる。時々息を抜く音がして、啓太の気持ち良いポイントを突いてる事が分かった。
「もー、大丈夫」
「もう良いのか?」
「うん、ありがと。あおちゃんもしてあげよっか?」
「俺?」
「ベッド、横になって」
振り返ってきた啓太に言われるがまま、ベッドへ体を倒す。俯せて枕へ顔を沈めたら、啓太のにおいがしてなんだか落ち着く。
目を閉じて力を抜いていたら、腰の上辺りに啓太が跨がってきた。
「ん…っ」
肩の上の方を親指で押されて、思わず声が漏れる。やばい、すごいきもちい…体の力が更に抜ける気がする。
さっき俺が押した所から始まって、肩甲骨辺りまで下がる。骨の間を指でグっと押されるのが堪らない…!
「っ、ぁ…けーた」
「な、何…?」
「もっと、強く…」
「んと…こ、これぐらい?」
「んぁ、そう、あぁぁ…きもち…」
気持ち良さに、思わず口が開く。俺の要望通りに少し強めの力で指圧は続いて、腰の辺りまで降りてきた。肩こりは自覚してたけど、腰もこってたのか…どこを押されても気持ち良くて、蕩けそうだ…。
「ぁ、そこ…そこきもち…」
「あお、ちゃん…」
「すご…なんだこれ、んんっ」
押される度に声が漏れる。なんか喘いでるみたいだけど、正直気持ち良くて声が止められない。せめてだらしなく開いてる口から涎は垂れない様に、それだけは気に掛けていると、啓太の刺激がまた上へと上がってきた。
腰を通り、肩甲骨、肩…かなりの重労働をさせてるせいか、上にいる啓太の荒い息づかいが聞こえてくる。
「はっ、あお、ちゃん…!」
「ふぁあ、あっ、けーた…!」
「きもち?あおちゃん」
耳元から聞こえてきたのは、囁く啓太の低い声。薄く目を開けて、少しだけ顔を動かすと、目の前に息を荒くしてる啓太のドアップ。電気で逆光気味になってるから顔がちょっと暗い…それのせいもあってか、異常にエロく見えた。
「けーたぁ…んぁ!」
名前を呼んだ瞬間、肩甲骨の間をゴリってされて、今まで無い甲高い声が出た。そうすれば啓太は無言で顔を近づけてきて、耳元で可愛いとだけ囁いた。
それから、ちゅ、ちゅって音がして…耳にキスされてんだとやっと気付く。それも気持ち良くて、再び目を閉じた。
やたらと腰が熱い。啓太が跨がってる所、お互いが触れあってる場所がすごく熱い。
いつの間にか背中を押す刺激は止まっていて、なんだか温かいし、少し重い。覆い被されてんのかもしれない。
ひたすらに耳にキスをし続けられ、意識がふわふわしてきた。尻に硬い物が押しつけられて、緩く動かされる。俺だって同じ男だ、それが何なのか分からない訳じゃない。
やばい、このまま続けられたら、俺も勃ちそう…
「~~~ッ!!ご、ごめ…!!!いったぁ?!?!」
このまま流されても良いかなって思った所で、突然背中の重さが無くなった。ついでに、ガタって大きな音が上がる。蕩けた目を開け、肘をついて上半身を起き上がらせると、真っ赤な顔で眼鏡をズリ落とし尻餅をついてる…なんとも間抜けな啓太の姿がそこにあった。
しかも両足を開いて股が丸見えのせいで、ゆったりしたスウエットでも真ん中の盛り上がりが目立つ。本気で勃ってる…。
「お、俺!ごめ、あおちゃ…!!」
「いや、お前こそ大丈夫か…?」
「あああ、ごめ!えっと、コ、コンビニ行ってくる!!!」
「え…?」
「うん、コンビニ!行ってくるね!!ごめ、!」
「ちょ、啓太、」
俺が起き上がるよりも早く立ち上がると、啓太は逃げるように廊下に続くドアを開ける。
あまりの慌てように止める暇も無く…バタバタ物音がして、玄関のドアが閉まる音が続く。バタン、と音がして訪れる不思議な状況。
なんでこんなことになっちまったんだ…?
ずっとつきっぱなしのテレビからはバラエティの笑い声。出しっぱなミシン。明るい室内。
いつも通りの啓太の部屋だったはずなのに…なんで、あんな、エロいことになっちゃったんだ…
フラッシュバックする啓太のエロい顔と、盛り上がってた下半身。
「絶対、大きいよな…」
って、何を思い出してるんだ俺は!!!恥ずかしいなぁ!もう!!
誰もいない室内なのに、思わずシーツを頭から被って、隠れるように潜り込んだ。
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