4 / 21

4 試し着の夜

  「すげぇ…」  朝、電車を待つホーム上。  開いたトーク画面を見て、思わず声が漏れてしまった。  細かい装飾類まではついてないけど、紛れもなくファンタジックアースのミレイユが着ている軍服がそこに写っている。しかも、上着と一緒に布きれのようなスカートまでついてる。  前に啓太の家に行った時、確かにこれは布状態だったはずだ。たった三日で、こんな風に洋服へ変わるもんなのか…?  信じられないけど、間違いなく布だったあれが既製品みたいな綺麗な作りの軍服になって、ハンガーにかかってる。  あいつも仕事をしてるはずなのに…どの時間でここまで作ってるんだ…。 『すごい』 『ほんと?シルエット、結構綺麗に出来たと思うんだ!』 『マジですごい。本当に作れんだな』 『 www 張り切ったよ!w でね、細かいの付ける前に調整したいんだ。着てみて欲しいんだけど、暇な日あるかな?』  着てみて…そういえば、啓太の体に合わせた型紙を、目分量で詰めて作ってたんだっけ。細かいの付ける前に、大きさを調整しておきたいぐらいは、洋服を作ったことのない俺でも分かる。 『いつでも良いよ、お前に合わせる』 『じゃあ今夜は?!』 「は、今夜?」  帰ってきた文章に対して、また声が漏れる。慌てて口を押さえ、隣に立ってた人をチラ見してしまった。良かった、イヤホン付けてる…。  再びトーク画面へ視線を戻すと、ごめん忙しいかな?と様子を伺う発言が続く。啓太としては、作業を進める為にも早いほうが有り難いんだろうな。別に予定も無いし、まあいっか。 『大丈夫。仕事終わり向かうわ』 『ほんと?!いいの?!あおちゃんありがとう!』  続いて押される可愛いうさぎのスタンプ。それに対し、俺も三国志のスタンプで返事を返す。正直俺のスタンプは意味わかんないけど、気持ちは伝わるだろ。  そこでちょうど電車がホームに入ってきたので、スマホの画面を暗くしてやり取りは終わった。  ◆  仕事帰り。啓太の地元駅で待ち合わせをして、今日はラーメンを食ってからマンションへと向かった。三日ぶりの啓太の部屋は、この前きた時よりも荒れていた。地面に布きれが散乱していて、割と…いや、結構酷い。  朝方まで作ってて、ごめんね!と布を寄せ集めて端へと追いやってるが…それ、使うのとゴミ混ざってんじゃないのか…大丈夫なのか…? 「はい、これ!」  出来上がった衣装はハンガーにかけられて退避されていた。  朝LINEで見た通り、綺麗な作りの真っ白い軍服を受け取る。とりあえず裸になって着ればいいのか…?俺の疑問は言わなくても伝わったらしく、肌着は着てて大丈夫だよと返された。  いつもの位置へ鞄を置き、一番荒れていないベッドの上に避難する。スーツを脱ぎ捨てネクタイを抜き取る。インナー着っぱなしだから、今日はちゃんとYシャツのボタンを外して脱いだ。それから受け取ったばかりの上着に腕を通し、前を留めた。 「ちゃんとくるみボタンとボタンホールで作ったんだよぉ~」 「大変なのか?」 「大変じゃないけど、めんどいかなぁ。いつもはマジックテープとか安ピンにしちゃうんだけど、あおちゃん着てくれると思って張り切っちゃった」 「言ってたな、張り切ったって」 「うん!なんたって嫁だもん!」  向かいの床に体育座りをして見学していた啓太は、ほんのり頬を赤く染めながら嬉しそうに笑う。啓太が作ったのを着てるだけなのに、ここまで喜んでもらえると…俺まで少しだけ嬉しくなる。  ボタンを全て留め終え、スラックスを下ろす。俺の足下に並んでいるのは、布きれのようなプリーツスカート…これ、穿くんだよな…。手に持って広げてみたら、頼りなさ過ぎる布面積だ。だけど、この白いのの奥から期待に満ちた視線も感じる。  とうとう女装の第一歩を踏み出すのか…ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込むと、意を決してスカートに足を通した。  するっと腰まであがってきたそれの、横についていたフックを留める。それからファスナーを引き上げれば完了…あっという間に穿けたスカートは、とんでもなく心許ない。スースーしまくりな足を守るように、両手でさすった。 「み、短くないか…?」 「そう?原作通りだと思うけど…真っ直ぐ立ってみて?」  急に真面目になって立ち上がった啓太に姿勢を正せと言われ、ぎこちない動きで上体を起き上がらせる。気をつけをする俺の全身を数回見渡してから、啓太は腕の間に片手を差し込んできた。背中を摘ままれて、服が一段階絞まる。 「キツイ?」 「いや…」  啓太は、横にあるテーブルに乗ってるまち針を数本掴むと、口へと咥えた。それからまた服を摘まみ、固定するように針を留めていく。袖も折り曲げられ、ちょうど良い長さでまち針を刺された。 「ん~…腰は少し詰めすぎたかなぁ…」  脇腹辺りを指でなぞられて、ぴくりと体が揺れる。くすぐったいけど、ここは我慢だ…!そんな俺の様子に気付いてないようで、啓太は膝立ちに体勢を変えると、両手で腰をさすっていく。  腰骨辺りまで降りてきた手は、数回そこを撫でて位置を確かめると、今度はメジャーを手に取った。そのまま腰に抱きつくようにしてメジャーをまかれる。 「うん、大丈夫!これぐらいならすぐに手直し出来るよ」  メジャーをしまいながらこっちを見上げてくる啓太の笑顔にぎこちない返事を返すと、どうしたの?と顔を覗き込んできた。  やめろ…そんな、汚れの無いような目で俺を見るな…! 「…だって、いい大人が…こんな…ミニスカート…」 「? ミレイユの衣装着てるだけだよ?」 「でも…」 「ミレイユが着てるのがミニスカートなだけだよ?そう言う衣装なんだし。あおちゃんが女装の為にミニスカート穿いてるわけじゃ無いよ?」 「そ、そうかな…」 「うん。あおちゃんが着てるのはミレイユの衣装じゃん、普通だよ」 「そ、そうだよな…?」  普通と言われて、無理にでも自分を納得させる。そう、そうだ、これは普通なんだ。啓太がそう言ってるんだ、啓太を信じなきゃな…! 「うん、脱いで良いよぉ。あ、針ついてるから気をつけてね」  オッケーが出た瞬間、真っ先にスカートを床へ落とした。必死に納得しようと頑張ったけど、やっぱり違和感が半端ないっす、ケータ先輩。  ◆  結局今夜も泊まる事になって、脱いでるついでだし先に風呂に入る事になった。  勝手にクローゼットを開け、バスタオルやら着替えやらを引っ張り出している俺の後ろで、早速衣装の手直しをし始めた啓太はミシンをかけ始める。  あんな衣装を人前で着るなんて…俺、恥ずかしくて死ぬんじゃ無いかなって、今更ながら不安が募る。それと同時に、頼まれた時に無理だろと指摘した下半身問題について思い出した。 「なあ、啓太」 「ん~?」 「そういえばさ、ちんこってどうすんの?パンツ丸見えだったよな?」  さっきあのスカートを穿いた時は、俺の黒いボクサーパンツが、スパッツのごとく下から出ていた。と言うか、短すぎて腰を前へ突き出せば、ちんこの盛り上がりが見えるぐらいだ。啓太は相談しとくからって言ってたが…どうなってんのかまだ聞いてなかった。  何気ない質問だったはずなんだが、今まで快調に動いたミシンの音が止まる。  ギクシャクしながらスマホへ手を伸ばした啓太は、無言で画面をタップし始めた。なんだコイツ、シカトか?  もっかい声をかけようとしたタイミングで、バイブの音。俺のスマホ画面が明るくなってる。ベッドへ放り投げてたスマホを手にとって見てみれば、啓太からのLINEだった。URLだけが投げられてるトーク画面。  不思議に思いながらも接続してみて数秒…表示されたWebサイトに動きが止まる。 「…タック、って言うんだって」 「…そう、だな…そう書いてあんな…」 「まあ、画像の通りなんだけど…おちんちんとお尻の間の所…体の中へたまちゃんを埋め込んで…おちんちんを倒して、残った皮で蓋をする、みたいな…」 「う、うん…」 「あ!べ、別に痛くは無かったよ!」 「試したのか?!」 「だって!あおちゃんがする事だもん、危なくないか試すよ!」 「え、あ、ありがと…」 「え?!えっと、どういたしまして…?」  なんでお互いに照れあってるんだ…なんか知らんけど、目を合わせるのがすごく恥ずかしい。視線は泳いで…最終的に、恥ずかしさのきっかけを作り出した手元のスマホへと落ち着く。  タックって言う技法?は想像した事も無い物だった。  ちんことケツの間ってのは何も詰まってないらしく、体内に金玉を詰め込む事が出来るらしい。金玉って言っても、睾丸だけ。コリってしてる2つを、陰嚢の裏辺りから体内へしまう。  それから、ちんこの皮を引っ張って包茎状態にする。このときに先端に穴開けて固定すると格納した状態でもトイレにいけるらしい。  で、そのちんこを、しまい込んだ金玉の上に沿うようにしてケツ側の方へと倒す。固定した所で、余ってる金玉の皮でちんこを覆い隠す。テープで固定して完成。  そうすると、女みたいに一本の線が出来た、ツルツルな股間の出来上がり…なんだが…! 「いや、え、こんなん、えぇ…?!」  動揺するのは当然だろ…!そんな、想像も出来ない事が本当に出来るもんなのか、痛くないのか、色々ありすぎて言葉に出来ない。  下着姿でベッドに突っ立ってる俺を見た啓太は、顔を真っ赤に染め上げてスマホごと俺の両手を掴んできた。 「本当に痛くないから!大丈夫、それは俺が保証するよ!」 「でも…」 「お願い、あおちゃん…!おちんちんしまうの、俺も手伝うから…!」 「う゛ぅ゛…」 「ね…!」 「わ、かっ…た…よ……」  俺のバカ…泣き出しそうな顔で腰を曲げて、必死になって覗き込んできた啓太のお願いを、断り切れない…。顔みちゃダメだと分かってるから、わざと目を合わせないようにしたのに…結局は了承の言葉を返してしまった…。  途端にぱああっていう嬉しさを表現した効果音の幻聴がした。けどすぐに、あっ、っていう声がしてそれも止まる。  今度は何だよぉ… 「えっと…書いてあると思うんだけど、これするのに、テープでたくさん固定するんだ」 「…お、おう」 「ほら、テープってさ…ツルツルしてないと、固定しないじゃん…?」 「まさか…」 「し、下のおけけ、剃って下さい…!」 「嘘だろ?!」 「ぜ、全部じゃないよ!?ほら、おちんちん付近の下の方と、足の付け根のとこ!」 「…下の方…」 「あ、あと…その、上の方も…」 「上?!なんで?!」 「スカートの位置が大分下だから、上の方も剃らないと見えちゃうんだよ!」 「マジかぁ…」 「おけけ出てる方が恥ずかしいじゃん…!?」 「わかるけど…!」 「下も、テープ貼るときに巻き込んじゃうかもだし…!」  お願い、あおちゃん!と両手を握りしめたまま、涙目で見つめてくる啓太。  ここまできて断れるわけないだろ…。力なく分かったよと返事をすれば、力強く抱きしめられた。涙声でありがとう~~~!!って言われても、何も返せん…。  泣きたいのは、俺の方だよぉ…

ともだちにシェアしよう!