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8 宅コスなう
ウィッグの外し方はよく分からないから、とりあえずは服だけ脱いで風呂場へと入る。お湯を出しながら前回お世話になった女性用カミソリを手に取った。
湯にくぐらせたカミソリを足にあて、ゆっくりと上へ動かせば、みるみるうちに足は真っ白になっていく。毛を剃るだけでここまで見た目って変わるもんなんだな…
鏡に写った自分の足は白くて細い。ちんこより下までだったら、二次元の女キャラっぽい足してるんじゃ無いか?同人みたいなむっちりじゃなくて、アニメみたいなスラッとしてるやつ。なんて、変な自信まで湧いてくる。
知らない自分を次々に発見する機会を与えてくれるコスプレって、結構すごい趣味なのかもしれん。
脱衣所でもう一度衣装を着込み、ニーハイを履き直してからリビングへ戻ると、メイクすると言っていた通り、ウィッグネット姿の啓太がそこにいた。
すでに衣装は着込んでいるのに、頭は黒色のネットってのは結構シュールな光景だ。
「あおちゃん、早いね…!もうちょっと待っててもらっても良い?」
「おー、ごゆっくり」
「あ!あと、これ!大切なこれ…!」
「?何?」
ベッドの上で丸まってた黒い物を四つん這いで近寄り手に取ると、俺の方へと渡してくる。
それを受け取って、目の前で広げ固まった。これは…いつぞやの牛丼屋でみたスクショと同じ…
「紐、結ぶの必要なら言って!!お、俺、手伝うから…!!!」
「いらんわ!」
カラコンで大きくなってる目を更に大きく広げて、余計な事を言ってくる啓太へ秒速で突っ込む。
本当に?大丈夫?穿ける?ってしつこく聞いてくるのをシッシッと手で払い、とりあえずTバックを元にあったベッドへと戻した。
「あー…なあ啓太。医療用テープなんか持ってないよな?」
「ん~。サージカルテープならあるよ。これでい?」
メイク箱から出てきたのは、ガーゼとかを留める時に使う透明のテープ。と言うか、俺がタックの時に使ってたのと同じのを取り出されて、驚いた。
何も言わずとも、顔にはなんで持ってんだと書かれていたらしく、これぐらい皆持ってるよぉと笑われた。レイヤーって怖い。
啓太のメイクが終わる前に、ちんこを格納してしまおう。
ベッドの上へと上がりこむと、さっきよりは小さめの鏡を立てた。パンツを脱いでからいつものように足を広げて座り、具合を確かめる。
指で位置を確認して、中へと押し込むめば、金玉は簡単に言うことを聞く。すっかり慣れた行為を手際よく進めていった。テープで留めて固定をすると、膝立ちへと体勢を変える。スカートの下へ手を突っ込んで、ちんこを引っ張り上げて固定。もう一度座り込んで、鏡を見ながら擬似まんこの形を整えていく。
俺の行動が気になってやたらとチラ見してくる啓太だけど、俺が最終段階の仕上げまで来た頃には、きちんと化粧は終わっていた。
黒髪のウィッグをかぶり、整えながらも視線は俺の股間にばかり目がいっている。やり方を知ってるっつっても、他人の完成品なんてまじまじと見る機会もないだろうし…まあ、気になるよな。こればっかりは仕方ない。
そう割り切って立ち上がった俺も、仕上げとばかりに落ちていた紐パンへ手を伸ばす。
既に形が作られていたので、とりあえず足を通した。サイドの紐を解いて、自分のサイズに合うように両方共引っ張り結び直す。布面積が狭くて、添えるだけのような下着は、心許ない。その癖、後ろに行くにつれて生地が食い込んできていて、ケツの割れ目に沿うような感覚。Tバックなんだからそんなもんなんだろうけど…人生初なだけあって、違和感が半端ない。
これ、本当に隠れてるのか…?そわそわとケツを触っていたら、あおちゃんと呼びかける声。
視線を向ければ、そこにはソシャゲの主人公が正座していた。顔を真っ赤にして、そわそわしながらだけど。
「おお、すげー、啓太イケメンじゃん」
「えぇ?!そ、そんなことないけど…!」
もじもじと肩を動かしながら視線を下へと逸らして、泳がせている。行ったり来たりしている目が、最終的に俺のスカートへ集まってきてて…言いたいことを察した。そうだよな、手際良すぎるよな。
「そりゃあ練習するだろ、ここまで綺麗に衣装作ってくれてるんだし」
「え?!れ、練習?!ひ、一人で…?!」
「こんな練習一緒にするようなやつ、いないって」
更に顔を赤くして、今度は顔を見つめてくる。心なしか目も潤んでいた。なんだろう…感動されてる?
俺の頑張りにその反応は中々悪くない。サービスしてやりたくなる。良くなった気分のまま、指先でスカートの裾を掴むと上へ引っ張り上げた。
「あああああおちゃん?!?!」
顔の下、首元まで真っ赤にした啓太が、即座に両手で自分の顔を隠す。けど、しっかり目の部分は開いてて、視界は確保できてるのはお約束だ。
動揺しまくりな相手に、自信満々なドヤ顔を返した。
「どーよ、この成果」
「ファ?!え?!その!と、とってもえっちです…!!」
「素直でよろしい」
◆
「ん~、影になるなぁ…こうかなぁ~…?」
からかって遊んだ後、写メを撮りたいと言い出した啓太に付き合い、壁際に二人で並んで座っていた。床のフローリングも壁も白い啓太の部屋は、レフ板効果もあって写りが良いらしい。
自撮りなんてしたことも無い俺には全く分からないけど、暗いスタジオよりは綺麗に撮れるよと啓太が言っていた。
そんな綺麗な啓太の部屋なのに、写り具合が気に入らないらしい。二人の間に入る自分の腕の影を気にして、何度か位置を変えて確かめている。
せわしなく動くスマホの画面は自撮りモードの為インカメラになっていて、唇をとがらせている主人公とぼーっとしてるミレイユが写っていた。すげぇ…実際にこうして並んで見ると、自分たちじゃないみたいだ。
「よし、ここかな!」
位置が決まったのか、スマホを固定させた啓太は俺の方へと体を寄せてくる。もっとこっちきてとさり気なく腰に腕を回され引き寄せられた。啓太の胸の位置に納まるような体勢…普段写真を撮るときにこんな寄ることはないから、少しだけ吃驚した。
「3秒でいくね~。カメラは左上だよ」
「え…!?」
タップされたせいで、画面に大きく数字が表示される。慌てて指定された左上を見ると、同時にシャランって軽い音がした。
そして画面には、キメ顔の啓太と間抜け面の俺の顔。ひでー顔面の差に思わず引きつる。
「あおちゃん、もっと笑わなきゃ」
「う、笑うったって…」
「ちょっと練習してみよっか、はい、画面見て」
もう一度カメラモードに戻ったスマホを見上げる。口閉じて笑ってと指定されて、とりあえずその通りやってみる。ぎこちないなんてダメ出しをされても、そんなのしたこと無かった人間にいきなりやらせるなんて無理があるだろう。
「ん~…角度も悪いのかなぁ…?動かないでね」
「お、おう…」
「表情は崩さないで、むしろもっと媚びて」
だから無茶言うなっての…!叫びたい衝動をおさえ、大人しく止まっていると、顔の位置を少しずつ動かされる。正面より少し斜め上辺りが写ったところでこの位置覚えて!とまた無茶を言う…んな覚えられるかって思ったけど、画面の中の俺は、さっきよりも数倍可愛く写り込んでいた。なるほど、こうやって探してくんだなぁ…。
「はーい、撮るよ~」
そこからがすごかった。撮るって言われたら1枚だと思うのが普通だろう。
だけど、啓太の写メは、連写のように何枚も枚数を重ねていく。似たようなポーズだけど表情が変わってたり、角度が変わってたり、ウインクしてたり。
役者の如く動く表情に釣られ、後半は少しだけ俺の表情も動いたような気がする。
「盛れたのあるかなぁ…とりあえず、アルバム作って入れとくね」
LINEなんてトークと無料電話しか使ったことなかったけど…アルバムっていう機能あるんだな。表示されたリンク先を触ると、今さっき撮ったばかりの写メが大量に詰まっている。すごい、30枚近く全部俺たちだ。
しかも、アプリでも使ってるのか、どの写真も明るくて肌がツルツルしてて…とにかくすごく綺麗に写っている。
「なんか…別人みたいだな」
「レイヤーなんてそんなものだよぉ。加工してなんぼの世界だし」
「へぇ…今時、こんなんあるんだなぁ…」
「これはまだ弱い方だよ。たまに時空歪んでる加工アプリとかあるし」
「目とか異常にデカくなるやつだろ?耳とか鼻とか生える」
「そそ、あれはちょっと俺も好きじゃ無いんだよねぇ…よし、送信っと」
「何してんの?」
「ふふふ~、じゃーん!」
自分のスマホで写真を見ていたせいで、啓太の行動に気付くのが遅れてしまった。送信という言葉に顔を上げると、啓太は自身のスマホを俺へと向けてきた。
よく見るツイッターの画面。そこには、撮ったばかりの写メが掲載されていた。
主人公に抱き込まれ、胸に納まりはにかむミレイユと、そのミレイユの額に唇を寄せて、でも視線はこっちに向けてドヤ顔をしている主人公の写真。それを更に綺麗に加工され、宅コス~!俺の嫁です♡って言う簡素な発言と共に投稿されている。
「げ?!いつの間に…!」
啓太のスマホを奪い取り、しっかりと見てみれば、下にある緑の矢印と赤の♡が定期的に動いて数字が増えている。いやいや、反応されすぎでしょ…?!
信じられない、めちゃくちゃ恥ずかしい…!そわそわする気持ちを落ち着かせようと、足を引き寄せ膝に顔を埋め込む。でもやっぱり気になって、チラっと画面を確認して。恥ずかしくなって再び撃沈。
イケメンと一緒に写るって、こんな大変なことなのかよ…恥ずかしい…足の親指をきゅっと入れ込んでなぜか力んでしまう。こんなことしても恥ずかしいの飛んでかないけど。
「…ここ、すごいね」
突然耳元で聞こえた声と同時、膝から太もものラインを軽くなぞられた。ゾワっと背筋に鳥肌が立ち、反射的に姿勢を正す。
「何すん…?!」
文句を言おうと横を見て、熱っぽい目をした啓太と視線が絡む。そうすれば、強くは言えなくて…声は途中で止まってしまった。え、な、なんでいきなりエロい顔して近寄ってきてんだ…?俺、今スマホ見てただけだよね…?
「けい、た…?」
「このライン…すごい、えっち」
人差し指一本から、手のひら全部に接触面積を増やした啓太の手が、再び同じ所を撫で上げる。黒い手袋をはめているせいで、布越しの感触がくすぐったい。
雰囲気に飲まれたせいか、どうしても制止の声があげられなかった。
目を逸らして、俯いてみたけど、啓太は止まることは無くて、名前を呼びながら可愛いと耳元で囁かれて、何度も撫で上げられる。一体どこでコイツのスイッチを押しちまったのか…全く心当たりは無いけど、啓太の甘い声を聞くのはなんだか心地よかった。
スカートの裾までだった手の位置が、次第に上がってきて、ゆっくりとスカートの中へと入ってくる。やばい…なんだか変な気分になってきた…絶対にエロく撫で回してくる啓太の手のせいだ…!
パンツのラインを確認しながら移動してきた手のひらは、そっと下っ腹辺りで止まる。腹にくっつけていた太ももは、いつの間にか力が抜け手の侵入を許していて…その手は、くるくると円を描くように撫で上げてきた。
「っ、ん…!」
少しだけ力を入れて押された瞬間に、思わず声が漏れる。唇を噛んで耐えようとしたら、下唇に親指が添えられてやんわりとやめさせられた。そのまま顎をクイっと上げられ、再び啓太と視線が絡む。
発色の良い緑の瞳…作り物だから、感情は読み取れない。そのはずなのに、細められた瞳からは性的な物しか感じられなかった。
「あおちゃん、ごめん…なんか、興奮してきちゃった…」
顎を親指で撫でながら顔を寄せてきた啓太は、少しだけ息が荒い。きっと、俺も同じような顔してるんだろう。この部屋にくると、どうも関係が曖昧になっちまう。
好きって言われまくって麻痺したのかな…それとも、今自分が女装してるからこんな気持ちになるのかな…とにかく、目の前でお預けをされてる啓太が可愛くて、甘やかしてやりたい。
両手で握りしめていたスマホを床へと置いて、そろりと腕を伸ばす。
相手の首に回して名前を呼んでやると、泣きそうになりながら名前を呼び返された。
「大好き」
何度も聞いている言葉と共に、唇を塞がれる。薄く開くとすぐに舌が割り込んできて、絡め取られてしまった。
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