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バレンタインSS

  「この世は地獄です!!!」  どっかで聞いたことのあるセリフを叫びながら、啓太はベッドへと倒れ込んだ。  その手にはスマホを握りしめている。そう言えば、今日から実装されたガチャは、啓太の推しであるミレイユのバレンタインVerだったか…ちらりと画面を覗き込むと、左上の石の数は0になっていた。  えっぐ、全部ぶん回したのに出なかったのかよ、こいつ…  そう思いつつも、何も言わずにテーブルの上に広がっているチョコへと再び手を伸ばした。  啓太が会社で貰ってきたチョコは、とんでもなく多い。小さいのからでかいのまで様々…鞄に入りきらず、手提げ袋を持って帰ってきたぐらいだ。  とりあえず賞味期限がやばそうなのから手をつける。啓太にやったチョコが、知らない男に食べられてるとは…あげた女も可哀想に。  ふわふわした喋り方には似合わず、啓太は甘い物が苦手だ。普段からコーヒーもブラックしか飲まないし…それを隠しているわけでもない。仕事が一緒なら長い時間共にしているわけだし、気づきそうなもんだけど…そう思えば、罪悪感はあまり感じずに次の包みを破くことが出来た。 「うううう…!あおちゃん~~~っ!世は悲しみに満ちてるよぉ」 「和睦待ったナシだな」 「リアルも2次元も、嫁が冷たい…!」  おざなりな返答に、啓太は起き上がると俺へと突進してきた。ベッドに背を預けるようにして座っていたせいで、俺よりも上の位置に居た啓太が首元へ顔を埋めてくる。  それがくすぐったいけど…ここで文句言うと泣きべそかきはじめるのも知っているから、頭を撫でてやることにした。  気が済むまで好きにさせていれば、しばらくして擦りつけるのを止めた啓太が顔を上げる。大丈夫か…?おでこ赤くなってるぞ… 「今日バレンタインだよぉ…?」  まだ言うか。課金する金、俺は絶対貸さないからな。  シカトしてチョコを口に入れる。さっきのよりも香りが良くて、高い味がした。 「あおちゃん、たくさんチョコ貰ってきてるし…絶対本命だよね?」 「そんなわけあるか。それに、量は啓太の方が多いだろう」 「だって、手作りもらったんでしょ?!」 「全員に配ってたよ、その手作り」 「うぅ…俺のあおちゃんに、手作り食べさせるなんて…」  どうやら、ガチャでミレイユが出ないってことよりも、俺が手作りを貰って食べたってのが気に食わないらしい。  手作りを持って帰ると面倒だろうと思って、職場で食ってきたが…言うの自体まずかったかな…いやでも、言わなかったらそれはそれで不貞腐れそうだ。  珍しく嫉妬全開にしてきたのはわりと嬉しいけど、そろそろ機嫌を直して貰うか… 「けーた」  ビターチョコレートへ手を伸ばし、口に咥えた状態で名前を呼ぶ。 「え…っ、え…?!?!」  俺の意図を理解したけど、本当にして良いのか…そんな顔をして戸惑う姿が可愛い。顔を近づけるように指でちょいちょいと促せば、途端にエロい表情へと変化して唇を塞がれた。 「んぅ…っ」  食いつくようなキスをしながら上を向かされ、頭を啓太に固定される。入り込んできた舌が、チョコを転がしてくる。  互いの熱で溶けるチョコと、溢れる唾液…何度かに分けて飲み込んでいると、いつの間にかチョコは消えていた。それなのに、啓太は離すつもりはないようで、俺の舌を絡めとると吸い上げられる。 「ぁッ、ふ…ぅ!」  やばい、気持ちいい…体の力が抜けてくる…疼き始めたのを察したようなタイミングで、啓太は唇を離した。 「今のは本命…?」  ペロッと唇を舐め上げて啓太がいやらしく笑う。それに感化された俺は、立ち上がると啓太の上へと乗り上げた。 「俺からの本命チョコ、もっと食うか?」 「あおちゃんのは、残さず全部食べたいなぁ」  もう今夜は食べることもないだろうし、チョコの箱、閉めときゃ良かったな。

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