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お題:染まる
「夕飯できたから、一回どかせ」
キッチンから顔を出して、ガタガタとミシンを走らす啓太に声を掛ける。
言われた通りすぐにミシンを止めた啓太は、端に片付けるとこっちまでやってきた。
引っ掛けてある布巾を手にして湿らしながら、フライパンを覗き込む。
「やったぁ、麻婆豆腐!」
「お前これ好きだよなぁ…」
「あおちゃん作ってくれるの、すごく美味しんだもん」
「そうかぁ?」
布巾片手にリビングへと戻っていく啓太は鼻歌を歌っている。どんだけご機嫌なんだ…
でも、作った物に対して美味いって言ってもらえるのは嬉しい。
料理が下手なお袋だったから、自分で飯をつくる機会は学生の頃から結構あった。最近は食べてくれる人も出来たせいで、わりと練習もするようにしてる。
以前は素を買ってきてぶち込むだけだった麻婆豆腐も、今では使わずに作れるようになった。好みの味に近づけるように、少しずつ調整してたりする。
「いただきまーす!」
大口を開けてスプーンを咥える啓太を横目に、俺も麻婆豆腐を食べる。結構辛めの味付けに舌が痺れた。
前はこんな辛いの食えなかったけど…人間、慣れるもんだな。
「ん〜〜〜!美味しい〜!あおちゃん美味しいよぉ!」
「そうか、良かったな」
素っ気なく返すけど、内心はめっちゃ嬉しい。俺の返事なんて気にしてない啓太はにこにことしていた。
食事は秒殺で終わって、食器を流しへと運ぶ。食器洗いは啓太がするから、俺は隣で皿拭き。
「ふふふ…」
綺麗になっていく食器をぼんやり見てたら、気色悪い笑い声が聞こえてきた。なんだこいつ…視線だけやると、なんともだらし無い顔をしている。
「あおちゃん、辛いの平気になったよねぇ」
「まぁ、そうだな」
「なんか、俺に染まってきてる感じするなぁって」
「な…」
「台所も、あおちゃんが色々足してくれて、あおちゃんに染まってる感じするじゃん。付き合ってるんだなって、嬉しくなっちゃった」
ヘラっと笑いながらとんでも無く恥ずかしいことを言われた…!
って言うか、啓太のために料理練習して、啓太の好きな味付け覚えるとか…無意識にやってたけど、どんだけ啓太意識してたんだ、俺。
うっわ、恥ずかしい…!
「う、うっさい…!」
まともに顔が見れなくて、反対側を向いたらくすくすと笑い声が聞こえる。
あーくそ、バカップルかよ、俺たち!恥ずか死ぬ…!
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